第3話 ウイルス性の風邪をひいたらなんて言いましょうか?

 BT兄弟の激しい射撃にも関わらず、オミクロンたちの数は一向に減りません。しだいに、抗体の射撃は効かなくなり、数は増加に転じました。ホワイト司令は怪訝な様子で見守ります。

「なに、いったいどういうことだ?」

 オミクロンキングも抗体射撃を浴びましたが、表皮をおおう鎧は全ての銃弾を跳ね返しました。

「我々は常に変異すると言ったはずだ・・・」

 再び増加したオミクロンは反撃体制を整えます。その周囲では未だにナチュラル将軍の戦車が走り回っていました。

「まずは、天然ヤロウだ。馬だ。あいつの馬を狙え」

 オミクロンたちが一斉にナチュラル将軍に襲いかかります。白馬が槍で串刺しとなり、戦車が横転。投げ出されたナチュラル将軍に無数の刃が打ち立てられました。ナチュラルキラー細胞が敗れ去ったのでした。


 ホワイト司令がうろたえます。伝令用の無線機を手にBT兄弟に連絡します。

「抗体を入れ換えろ。いますぐだ」

 指令を受けるのはBT弟。

「了解です。いますぐに砲弾の換装を・・・・う、おまえは・・・・」

 そのBT弟の背後にたっていたのはオミクロンキングでした。その右手には剣が握られていました。オミクロンキングは無言のままBT弟に一撃を浴びせ、真っ二つになったBT弟は咽頭の崖下へと落下していきました。そこは免疫細胞の遺骸が積み重なり、痰となっていた場所でした。

 オミクロンキングは銃座に座るBT兄の喉もとをつかむと、そのまま持ち上げました。

「うう、助けてくれ。俺はただ指示されただけなんだ・・・」

 BT兄は必死に命乞いをします。しかし、オミクロンキングは簡単には許しません。

「おまえの射撃で何体のオミクロンが消えたかわかるか?」

「すまなかった。本当にすまなかった。もう、二度とこんなことはしない。だから、お願いだ。その手を離してくれ」

 オミクロンキングはそれを聞くと、にやりとしました。

「いいだろう。おまえは自由だ・・・」

 オミクロンキングが手を離すとBT兄は断末魔とともに崖下に落下していったのでした。そして、その遺骸は膿の一部となりました。


 免疫細胞部隊の前線が崩壊。ホワイト司令はついに苦渋の決断を下しました

「撤退だ」

 白血球たちは骨髄へ退却を開始しました。オミクロンは勝ちどきはあげます。防衛隊がいなくなった細胞につぎつぎとオミクロンが乗り込み始め、略奪が始まりました。細胞たちから回収されたATPやたんぱく質がオミクロンキングの元に積みあがりました。

 オミクロンたちは祝宴を上げます。細胞から奪われたATPを配るのはリボソームたちです。もはや、リボソームたちはウイルスたちの言いなりでした。

 宴もたけなわのなったときことでした。オミクロンキングは立ち上がり、ふたたび乾杯の音頭をとりました。

「免疫細胞、恐れるに足りず。次は肺、肝臓、そして、骨髄だ」

 そこに一人の少年が駆け込みました。

「やめて、これだと宿主の人間が死んじゃうよ」

 少年はベータでした。しかし、オミクロンキングはかつてのアルファではありません。ほろ酔い気分を邪魔され、キングは露骨に不機嫌な表情を浮かべました。

「うるさい」

 オミクロンキングの右手がベータの左頬を打ちました。

「うう」

 オミクロンキングは立ち上がりました。

「うめよ。ふやせよ。コピーせよ。この地こそ約束の地なり」

 オミクロンたちは一斉に歓声を上げたのでした。


 喉は赤く晴れ上がり、宿主の咳は止まりません。そして、ついに発熱が始まりました。熱は40度に達し、ベッドで横になっているのがやっとです。宿主は深夜、ベッドから落下してしまいました。それでも、誰も助けには来てくれません。深夜だったので家族は誰もそのことに気づかなかったです。

 そのときでした。細胞たちがつぎつぎと熱を発生させて、細胞は高温になり始めました。無論、体内の温度も上昇を続けます。40度の発熱はウイルスにとっては地獄の業火だったのです。

「ぐははああああ」

 高温に耐えられず、また一人、また一人、オミクロンたちが消えていきます。オミクロンキングもついに膝をつきました。

「おのれ、まさか、熱が我々の弱点だと知っていたのか」

 オミクロンキングの体は炎に包まれ、そして、消え去ったのでした。あっけない幕切れでした。


 さて、みなさん、真核生物の起源にウイルスが関わっていると言われていましたね。もし、みなさんにウイルス性の風邪症状がでましたら、ぜひ、「お帰りなさい」と言ってあげるといいかもしれませんね。なんてね。

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好奇心旺盛なベータくんとしっかりもののアルファくん 乙島 倫 @nkjmxp

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