第2話 オミクロンキングとホワイト司令の戦い

 そのときです。細胞全体を大揺れが襲いました。ベータくんは大慌てです。

「うわああああああ」

 あまりにも揺れが大きくて、このままでは細胞が壊れてしまいそうです。いったい、大揺れの正体は何でしょうか?

 細胞を揺らしていたのは、マクロファージでした。白血球のマクロファージはアルファやベータを異物して攻撃してきたのでした。細胞膜を突き破り、マクロファージが細胞の中に触手を伸ばしてきたときのことでした。突然、アルファくんの体が発光し始めました。いったい、何が起きたのでしょうか?心配そうに見守るベータくん。しだいに光が収まるとそのなかからは真新しい外観の別のウイルスがたっていました。その立ち姿は凛々しく、神々しく、その顔は光に満ち溢れていました。そう、アルファくんはオミクロン型へと変異したのでした。

「これから、私のことはオミクロンキングと呼びなさい」

 オミクロンキングは低い声でベータくんに話しかけました。オミクロンはアルファと違い、全身を金属の鎧のような装甲で被われていました。オミクロンキングはすっと立ち上がって、顔面をおおうマスクを装着。その両手には盾と剣を装備していました。

 すかさず、マクロファージの触手が延びますが、オミクロンキングはすばやくジャンプしてこれをかわしました。

「私は新型のさらなる新型だ。そんな攻撃、通じるとでも思ったか」

 オミクロンキングは、今まで細胞内で蓄えたエネルギーをもとに分裂を開始。たちまち、数万体のオミクロン隊が出現しました。一般兵のオミクロンは全て槍で武装しています。

「投擲!!!」

 オミクロンキングが号令すると、オミクロンたちは一斉に槍を投擲しました。空中を飛翔した槍はつぎつぎと白血球に突き刺さり、そのなかから本体が姿を現しました。ホワイト司令です。

「たかが、ウイルス。この免疫細胞様がいますぐ息の根を止めて見せる」

「ふん、裏で指示するだけの好中球にいわれる筋合いはない。常に進化し続けるウイルスの力をみせてくれるわ」

 白血球たちより一歩早くオミクロンが動き出します。

「全員、ファランクス隊形!!」

 オミクロンキングの指示のもと、オミクロン隊は密集縦列隊形となり前進を開始。陣形準備の整わない白血球隊がなぎ倒されていきます。

「ふははは。たかが人間の免疫細胞ごときが、数十億年の歴史を持つこの新型コロナ様に敵うとおもったか!!」

「お、おのれ」

 そのときです。白馬に引かれた戦車部隊が現れました。ナチュラル将軍です。戦車の車軸に備え付けられた長い刃がファランクスの隊列を一列、また、一列と削り倒していきました。

「ハイヤ、ハイヤ!」

 ナチュラル将軍の掛け声が響きます。ナチュラル将軍は天然パーマのイケメンです。しかし、剛毛で細かい身なりに気を遣わないという天然の性格で、とにかく戦闘好きで有名でした。

「おのれ、免疫細胞ごときが生意気な」

 オミクロンキングの表情が変わります。一方のナチュラル将軍は恍惚として表情で戦車を走らせ続けます。ナチュラル将軍は病原菌の排除というよりも、殺戮そのものを楽しんでいるかのようでした。

「くくく、ナチュラルのやつ、いつもよりも楽しそうだな。しかし、次の攻撃で最後だが・・・」

 ホワイト司令がそばにいる伝令に目配せすると、伝令が答えました。

「射撃準備完了です」

 ホワイト司令は黙ったままこくりとうなずきました。


 一方、咽頭の丘の上では、BT兄弟が火砲を準備していました。

「おい、弟者よ。射撃許可が降りたぞ」

「へっへっへ、兄者。派手にいきますか」

 BT兄が火砲の引き金を引くと、射撃が始まりました。大量の弾丸の向かう先はオミクロンの隊列です。弾丸が命中すると、オミクロンの兵士たちはつぎつぎとなぎ倒されていきます。弾丸の正体は抗体だったのです。

「はっはっは、オミクロンたちよ。これで終わりだ!!」

 ホワイト司令は勝利を確信していました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る