三、与右衛門と後妻 6


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 戸口に現れたのは、なんとも懐かしい顔だった。前に数日、世話になった隣村の加代だ。聞けばまだ独り身だと言う。容貌は少しも衰えていないのは、気ままな一人暮らしのせいだろうか。 

「おやまあ。ひどいもんだね」

 与右衛門の暮らしぶりを見て目を丸くした。

 家の中のことをしようにも、やる気が湧いてこないために荒れ放題なのだ。畑にはどうにか出ていたが、身を入れて働いてないので今年の収穫はよくないだろう。

 頼みもしないのに加代は家の中の掃除をはじめた。

 与右衛門はそれをぼんやり見ていた。こうやって親身になってくれる人がいるというのはいいものだ。サチが死んでから、ぽっかりと空いた心の穴が塞がるような気がした。

 畑からとってきた芋を加代が煮てくれた。二人で向かい合って食べていると、ずっと以前から二人は夫婦めおとだったような気がする。

「なあ、お加代さんの故郷はどこだい?」

「あたしかい?」

 加代は芋を飲み下し、「あたしはずっと大崎さ。あそこで生まれてあそこで育ったんだ」と言った。

「それなら親や親類があるだろう」

「そりゃあ、あるさ。親はもういないけれど親戚は何人かいるよ」

「そうか」

「それがどうかしたのかい」

 与右衛門は、「いや、なんでもないんだ」と首を振った。

「なあ、明日も来てくれよ」

 加代は驚いたふりをしていたが、内心嬉しがっているのは与右衛門にもわかっていた。

 それから何日か加代はやって来て、与右衛門の世話をしたり畑仕事を手伝ったりした。

「あたしはね、こう見えて畑仕事は好きなんだよ」

「そうみたいだな」

「一人で暮らすのも、なんだか寂しくなっちゃってさ。それであんたのことを時々思い出していたんだ。そしたらサチさんが亡くなったって聞いてね。あんたも寂しいだろうな、って心配になっちゃって」

「ああ、そうなんだよ。よく来てくれたな」

 並んで草取りをしながら、そんなことをぽつりぽつりと話した。そしてどちらから言い出したのか、ふたりは一緒になることになった。

 初めは、身の回りの物だけを持って与右衛門のところにやって来た加代だったが、しばらくして家を引き払うので、荷を運ぶのを手伝ってほしいと言う。

 そういうことになるだろうな、と先読みしていた与右衛門は用意していた話をした。

「なあ、俺がお加代の家に行くってのはどうだい?」

「え? どうしてだよ」

「俺はこの家が嫌なんだよ。畑仕事も好きじゃない。お加代は今までどおり機織りをして、俺は大工の真似事をして賃稼ぎをするよ。俺の田畑を売れば、それほど働かなくてもしばらくは食っていけるさ」

「なに言ってるんだよ、おまえさん。畑があればずっと食べていけるじゃないか。こんないい畑を手放すなんてもったいないよ。それにさ、あたしの家を買いたいって人がいるんだ。あんなぼろ家だけど、場所が気に入ったんだって」

 加代から家の売値を聞いて、与右衛門は俄に欲が出た。加代の言うとおり、気に染まない畑仕事だが嫌々でもやっていれば収穫があり、食うには困らない。その上、加代の家の代金があれば人を雇って楽をしたり、美味いものを食ったりもできる。

 表面上は押し切られる形で加代の家は売り、与右衛門と一緒にこのままこの家に住むことになった。

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