第12話 三兄弟

酒宴とは言え、料理はそれほど豊かではなかった。野菜料理は卵と野菜スープが中心で、白い植物の果肉を使ったサラダもあった。ウェインは、それが皮を剥いたサボテンだろうと推測した。

肉類もほとんどが干し肉だったが、酒は確かに豊富で、樽ごと運ばれてきた。ただ、こんな環境にいるだけで、すでに幾分か酔っているような気分になった。


「今日は何があったんだ?」

「親分が帝国の装備を手に入れたらしい。明日から帝国の国境に向かって進軍するそうだ!」

「おお!俺は前から殺りたかったんだ。これは本当に祝うべきだな!」

「見ろ!あの貴族のお嬢さんが、親分にその装備を献上したんだ。」

「へえ!スタイルも顔もいいな!」

「静かに!」


強盗の親分が一声かけると、室内は静かになった。

「状況はもう老三と先鋒部隊の連中から聞いただろうから、繰り返さない。今夜は酒を飲むぞ、存分に飲むんだ!」

「おお!!!」


場内は雷のような歓声に包まれた。

強盗たちはがつがつと食べ始め、ビールを一杯また一杯と飲むにつれ、室内は話し声や罵声で溢れていった。酔っ払った者の中には、中央の空き地で踊りだしたり、取っ組み合いを始める者もいた。


ウェインはこっそりフィルテに近づいた。

「フィルテさん、夜になってみんなが寝てから動くんですか?でも、ここの環境に慣れてないし…」

「それは黒鎧の騎士さんに聞いてください。彼が判断して行動してくれると思います。」


ウェインはサラスを見た。彼は杯を持っていたが、なかなか飲もうとしない。

「静かに!!」


酒が三巡した頃、強盗の親分が再び声を上げ、場内は静かになった。

「一つ発表がある。」

彼は壇を下り、リリアニーのそばに来た。

「お嬢さん、今夜は初めての出会いだが、一つ聞きたいことがある…」

周りの強盗たちは「おお、おお!」と囃し立てた。

「え、何でしょうか?」

「俺の妻になってくれないか?」


一同は無言で、強盗たちの囃し声だけが空間に響き渡った。

「え…?」

「昔、俺たちがまだ帝国に追い詰められてなかった頃、俺は帝国の国境の村に住んでいた。その頃、近くの町の教会に、お前にそっくりの修道女がいた…」

彼は強盗の老三を見上げた。

「俺たち三兄弟の母親が病気で苦しんでいた時、彼女はベッドのそばで離れずに世話をしてくれた。毎日、毎日来てくれた…結局、母親は薬が買えなくて亡くなったが、せめて最後の時は、それほど苦しまずに済んだ。」

「あの、もしかしたら私をその修道女と間違えているかもしれませんが、私は…」


目の前の強盗の親分は30歳前後の男で、ひげもじゃで片目の凶悪な男というわけではなく、むしろ幾分かハンサムだった。

「お前が彼女じゃないことはわかってる。だって、あの修道女は…もう死んだ。帝国の貴族に見初められたんだ。『帝国は有能な者を尊敬する』なんてくだらないことを言って、あの修道女を妻にしようとした。でも、彼女は教義を守りたがって、結婚を拒んだ。だから殺された。」


ジャックとウェインは確かに空腹だったので、体力を補うために少し食べたが、酒には手を付けず、いつでも動けるように準備していた。

「ただ、人は過去の後悔を無意識に補おうとするものだ。」


フィルテは淑女らしい態度を保ち、食べるべき時は食べ、飲むべき時は飲んでいた。

「フィルテ。」

「どうしました、黒鎧さん?」

「酔っ払うなよ。」

「もう全てを黒鎧さんに任せることに決めました。」

「俺が引き受けた覚えはない。たとえ任せたとしても、酔っ払って動けなくなるなよ。」

「たとえそうなったとしても、黒鎧さんが何とかしてくれるでしょう。」


フィルテはサラスの右側に座り、ティロは左側にいた。

(正体は明かしていないけど、サラス様とフィルテさん、仲がいいんだな…)

「あのバカどもがさらに騒ぎを大きくする前に、始めよう。」

「はい!」

「【大地】。」


サラスが呪文を唱えると、洞窟の全ての出入り口の岩が曲がり、塞がれた。

「彼らを全て経験値に変えよう。虐殺、開始だ。」


ジャック、ウェイン、華櫻はすぐにテーブルをひっくり返し、武器を手に取った。リリアニーも強盗の親分が気を取られている隙に、仲間のそばに移動した。

フィルテは慌てずに口を拭ってから、ようやく立ち上がった。


「ちぇっ、こんなに都合のいい話があるわけないと思ったよ…老三、これがお前が連れてきた連中か?」

「親分、最初はあんなに強いとは思わなかったんです、本当に!」

「バカめ、強いのはあの鎧を着た奴だけだ。【大地】の呪文で、あんなに多くの岩を同時に曲げられるなんて…お前、いったい何者だ?」

「五環…お前は規格外だ。」

「どういう意味だ?」


サラスは手を上げ、親分を指差した。

「【魂、思考、感覚、肉体、魔力、崩壊】——砕心。」

サラスが呪文を唱え終わると、強盗の親分はすぐに胸を押さえながら倒れた。

「六文の呪文!?お、お前!あああああ!」

彼は血を吐き、苦しみの叫び声を上げながら命を落とした。


「親分!くそ…やつらを殺せ!」

サラスが推測した通り、これらの強盗のほとんどは三環か四環の実力で、先鋒部隊以外はさらに弱かった。そのため、彼らはそれほど苦戦せずに敵を倒していった。


サラスは片手で酒樽を持ち上げ、空中に投げた。

「【崩壊】。」

酒樽が破裂し、酒が前方の強盗たちにかかった。

「【炎の鞭】!」

ティロの杖の先から長い炎の鞭が伸び、振り回された場所では強盗たちの体に火がつき、たちまち火だるまになった。


「少し残酷だけど、私も黒鎧さんの行動に合わせましょう。【火、媒体、風、魔力、移動】——火竜巻。」

「私も手伝います!」

ウェインも戦場に加わり、彼の呪文は三文までだが、火と酒の反応で効果は抜群だった。


華櫻は武器に酒をつけ、火をつけて炎の刀を作った。ジャックもそれを見習い、炎の大剣を作ったが、その熱量はあまりにも大きすぎた。

「熱い熱い…俺もやるぞ!」


強盗たちはリーダーが死んだことで既に逃げ出し始めていた。仲間のほとんどが酔っ払っており、まるで屠られる羊のようだった。逃げるのが賢明だと悟ったのだ。

しかし、岩を掘り起こしても、その先にはさらに岩が待ち構えていた。逃げられる場所は全て塞がれていた。


「あの…怪我をしたら私が治療します!」

リリアニーは強盗たちが炎に包まれながら焼け死んでいくのを見るのに耐えられず、目を閉じて祈った。

「目を開けろ、馬鹿め。」

サラスの声が背後に聞こえ、彼女はびっくりして振り返った。

彼女がサラスを見ると、その大きな鎧が光を遮り、言葉には何の感情もなく、動作には何の慈悲もなく、殺戮には何の躊躇もなかった。

「不意打ちに気をつけろ。」

「死神…」

彼女は小声で呟いた。


酔っ払った強盗たちはすぐに態勢を立て直せず、抵抗する間もなく殺され、実力も発揮できなかった。

ほどなくして、元々200人以上いた強盗たちは、広間で生き残っているのは隅に隠れていた老三だけになっていた。


「くそ…くそっくそっ!帝国はやっぱり人渣だらけだ!」

「これで、終わりだ!」

ジャックが炎の大剣を振り下ろそうとしたが、サラスが片手でそれを止めた。

「何するんだ!」

サラスはジャックを無視し、老三をつかみ上げた。

「いくつか質問がある。」


冷たい死の息吹と強い絶望が体に染み込み、老三は恐怖で涙を流し、足が震えていた。彼は地面に横たわる親分のまだ無傷の死体を見て、周りの焼け焦げた死体を見た。

「全部話したら…殺さないでくれますか?お願いします…」

「いいだろう。」

サラスはもう一つの酒樽を取り、老三の体にぶちまけた。

「だが、もし嘘をついたら…」

「嘘はつきません!絶対に!」


「そこに横たわっているあの男、前に『お前たち三兄弟』と言っていたが、お前と彼は実の兄弟か?」

「はい!同じ母親から生まれた兄弟です!」

「では、お前の次兄はどこだ?」

「え、それは…」

サラスの指先に炎が灯った。

「わかった!話します!次兄は前に東国で茶葉を奪いに行った時、日付が固定されていたために冒険者に埋伏され、捕まって牢屋に入れられました!」


この答えは重要ではなかった。たとえ彼が嘘をついていたとしても構わない。

なぜなら、どこにいるかはどうでもいいことだった。人がそんな嘘をつく時、距離については普通は偽らない。だから、今は近くにいないことがわかれば十分だった。


「お前たちがこれまで商隊から奪ったものは、まだここにあるのか?」

「あります!」

「案内しろ。」

サラスは老三を下ろしたが、まだ首を握っており、いつでも絞め殺せる状態だった。


彼らは老三に導かれ、崩れた出口の前に来た。

「この道が戦利品の倉庫に通じてます。」

サラスは何も言わず、呪文で岩を元の位置に戻し、老三を引きずりながら進んだ。


この通路は比較的広く、大きな戦利品も通せるように作られていたようだ。

通路の先には、広間にも匹敵する大きさの空間があり、壁際には棚が並び、その他の場所には戦利品が雑然と積まれていた。魔物の素材、鍛造材料、金銀財宝などが散らばっていた。


彼は老三を連れて、玉鉄の山の前に来た。

「それを拾え。」

「は、はい…」

老三は震えながら言われた通りにした。

「もっと拾え。」

ほとんどの戦利品に仕掛けがないことを確認した後、サラスは戦利品を外に投げ始めた。


「あの、本当に仕掛けはありません…俺たちも最近ここを拠点にしたばかりで、仕掛けを作る暇なんてなかったんです…」

サラスは老三を放し、彼は狂ったように外に走り出した。

「殺せ。」

ティロが炎の鞭で老三を打ち、彼は瞬時に火だるまになった。

そして、すぐに地面に倒れ、息絶え、焼け爛れてしまった。


「中に入って直接取った方が早くないですか?」

「もし複数人が入ると作動する仕掛けがあったらどうする?俺は対応できるが、お前たちは?」

「でもさっきあの男が言ってたじゃん…」

「もし彼が『俺は善人だ』と言ったら、お前は信じるのか?」

「…」


投げ出された戦利品はどんどん増えていった。

「これだけの玉鉄があれば、あの武士の装備を修理するのに十分だ。俺の需要も満たせる。そして…異なるレベルの魔物の素材は、必要な者が自分で取れ。ただし、かなりの部分はお前たちには手に負えないだろう。」


中には三環から六環までのレアな魔物の素材があり、五環と六環のものはフィルテが吸収し、四環のものはティロが吸収した。三環のものはジャックのチームのメンバーで分けた。


「【火】。」

残りの金銀は、サラスが超高熱の火で溶かし、いくつかに分けた。

「【熱量、崩壊】——冷却。持っていけないものは捨てるか、お前たちが中に入って取るか、好きにしろ。」

しかし、誰も動かなかった。


彼らはこれらの金銀を装備箱の隙間に詰め込み、再びラクダに積んだ。

「あの、牢屋に閉じ込められている人たちを助けに行きたいんですけど、いいですか?」

リリアニーが提案した。

サラスは少し考えてから、彼女の提案を了承した。

「それなら行け。」


彼らは監牢に戻った。ロイの死体は無残な姿になっており、クイズはその近くに静かに座り、鉄の柵の中の捕虜たちを見つめていた。

誰かが来たのを見ると、彼は立ち上がって挨拶した。

「おお、戻ってきたのか、宴会は終わったのか?」


リリアニー、ウェイン、華櫻、フィルテはロイの死体を見て、それから陽気で明るい青年のようなクイズを見て、それぞれに思うところがあった。

(怖い…)

(死体を鞭打つのはちょっとやりすぎじゃないか?)

(決意を持って良心に反する犠牲を払ったのに、あんな裏切りを受けるなんて…)

(もう人前と人後で二つの顔を持てるようになったのか?面白い。)


「クイズさん、一緒に帝国に戻りましょう!」

「…急に何を言い出すんだ。」

クイズは手を広げた。

「自分の価値を認めない場所に必死に食い込もうとするのか?俺はマゾヒストじゃない。」

「ここにいても無駄だ。」

サラスが前に出て、ジャックの言葉を遮り、柵の中を見た。

「あの強盗たちは、もう全員死んだ。」


この知らせを聞いて、捕虜たちは興奮して前に寄ってきたが、まだ隅に縮こまっている者もいた。ただ一人、眉をひそめている者がおり、サラスはその瞬間に結論を出した。

「バカなことを言うな、そんなわけないだろ!」

「信じないなら、自分で見て来い。」

クイズは一歩踏み出したが、すぐに警戒した。

「もし俺が行っている間に、お前たちがこっそり連中を解放したらどうする…?やっぱり、お前たちの後ろにいるあのバカみたいな冒険者たちは、強盗に降伏するような連中じゃないな。言い訳が下手すぎる。」

「おい、誰がバカみたいだって!」


「【金属、移動】——鉄操り。」

しかし、サラスが攻撃したのはクイズではなく、柵だった。

腕ほどの太さの鉄の柵が、見えない力で無理やり曲げられ、人が通れるほどの間隔が開いた。

ティロとフィルテ以外の全員が、この光景に驚き呆然とした。


「俺が望むなら、お前を殺すのは一言の呪文で済む。俺がお前を騙す必要はない…だが、お前がやったことを考えると、お前と捕虜たちのうち、どちらか一方だけが帝国に戻れる。そのことを理解しているだろうな?」


「どうでもいいさ。」


クイズは手を広げ、軽蔑的な笑みを浮かべた。


「俺はもう願いを果たした。未練もない。さあ、殺すなら殺してみろ。一言の呪文で済むんだろう?」


サラスは前に進み、クイズを殴り飛ばした。クイズが洞窟の壁にぶつかる直前、サラスは小声で呪文を唱えた。


「大地。」


クイズは壁にぶつかることなく、地面に着地した。


「さあ、お前たちは安全だ。出てこい。」


捕虜たちは柵の間隔から一人ずつ出てきて、サラスにお辞儀をしながら感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます!」


「助けてくれて本当に感謝します!」


ただ、先ほど眉をひそめていた捕虜は、非常にためらいながら出てきた。


サラスはティロのそばに行き、こっそり杖の一端を握り、ティロの手も一緒に握った。


(サラス様!)


最後の捕虜が柵を通り抜けた瞬間、柵が元の形に戻り、彼女を押しつぶした。


サラスはティロの杖を放した。


「何をするんだ!まだ出てくる人がいただろう!」


「俺は何もしていない。」


彼は柵に触れた。


「お前たちも俺が呪文を唱えたのを聞いていないだろう?これはおそらく『生体金属』だ。」


「生体金属?」


「聞いたことがある。」


ウェインも柵に触れた。


「特殊な鍛造技術を使わないと形を固定できないらしい。他の外力が加わっても、破壊的な打撃でない限り、ゆっくりと自己修復し、元の形に戻る…だが、その技術はすでに失われている。魂に関する研究が絡んでいて、多くの邪道が生まれたかららしい…あの強盗たちも言っていたが、ここに移ってきたばかりで、こんなに完璧な基地を短時間で作れるわけがない。ここは古代の牢獄の跡かもしれない。」


「なるほど…」


一同はようやく理解した。


幸い、強盗たちは数が多かったので、飼っていたラクダも多かった。広間の食料や水をかき集めれば、全ての捕虜を帝国の国境まで連れて行くのに十分だった。


「パン!うわ、裏側にかじられた跡がある…気持ち悪い!」


「果物も持っていかないと!」


「酒は飲めば飲むほど喉が渇くんじゃないか?」


「そうでなくても、水代わりに酒を飲むべきじゃないと思うけど…」


ただ、広間の惨状に捕虜たちは少し戸惑っていた。


(これはひどい…)


(あの7人がやったことなのか…)


(あの腕ほどの太さの鉄の柵を曲げられる怪物がやったんだろう…)


賢い者の中には、強盗たちの宝物庫を見つけ、金銀財宝をポケットに詰め込む者もいた。


しかし、本当に賢いのは青髪の少女だった。


「みんな!ここに宝物があるよ!早く来て!」


「何するんだ!みんなに聞こえたらまずいだろ!」


「でも私たちだけじゃ全部持って帰れないし、見つかったら逆に厄介になる。みんなで分けた方がいい。」


「確かにそうだな…」


一同は宿駅に戻り、荷物を馬車に積み、帝国の国境まで戻った。


「ここでお別れだ。」


「お疲れ様でした、特に…黒鎧の騎士さん。六文の呪文まで使えるなんて、本当に強いですね。戦術的な考えも完璧です。」


「拙者もそう思います。もし三人と同行していなかったら、このチームだけではあの強盗たちを倒すことすらできなかったでしょう。ましてや彼らの本拠地にたどり着くことなど…」


「ありがとう!これで華櫻の装備も修理できる。」


ティロは華櫻を見て、何かを考えているようだった。


彼らが去ると、フィルテ、ティロ、サラスの三人だけが残った。


「では、私はここでお別れします、フィルテさん。」


「…戻らないんですか?」


フィルテはサラスを呼び止めた。


「何だ?」


彼女はため息をついた。


「兄上。」


二人は目を合わせ、しばらく無言だった。


「ティロが話したのか?」


「え?私は何も言ってません!」


「私が推測…観察したのです、兄上。魔法使いとして、四環の戦士を近接戦で倒し、六文の呪文をあんなにスムーズに唱え、【火】の呪文で金銀を溶かし、鉄を操ってあんな太い金属を曲げる…そんなことができる者が他に何人いると思っているのですか?それに、突然現れた謎の人物で、誰も知らない。そばにいる黒髪のメイド、そして濃厚な死の気配…妹として、兄上を認める根拠は多すぎます。ただ一つ知りたかったのは…」


フィルテの目は少し寂しげだった。


「戻ってきたのに、なぜ自ら名乗り出てくれなかったのですか?」


「今の俺の身分には多くの不便がある。お前と名乗り出れば、お前が俺の身分のために無茶をするのが怖い。」


「冥界から帰還…これは帝国全体、いや世界を震撼させる偉業です!不便だなんてことはありません!」


「お前はもう無茶をしている。復活というレベルの事柄は、必ず無数の欲望を引き起こす。もし俺が何の準備もせずに身分を明かせば、国全体が混乱に陥るだけだ。お前もその点は考えられるはずだ。」


「それなら…兄上、参謀として家に戻ってきてはどうですか?戻ってくれるなら、すぐにフィーナ・ローンを始末します…」


「それもだめだ。この鎧の中には肉体がない。他の者と長く一緒にいれば、必ず疑いを招く。」


「いつなら準備ができるのですか?」


「すぐだ。フィルテ、冥界でただ一人、他の魂を貪り続けた四年間で、多くのことを考えた。多くのことは、視点を変えれば違う見方ができる。だから今、俺には新しい目標がある。」


「はあ…わかりました。では、兄上を待っています。時間がある時に、冥界での数年をどう過ごしたか、そしてどうやって帰還したかを教えてください。」


「わかった。」


フィルテは前に進み、冷たい黒鎧を優しく抱きしめた。


「冷たいですね、兄上。」


「まだ適した肉体がない。この鎧は魔力適性が良い。」


「適した肉体ですか…」


フィルテはティロを見た。


「兄上が戻る準備ができるまで、彼の面倒を見てください。」


「あ?はい!むしろ、私はずっとサラス様に面倒を見てもらってばかりですが…」


「兄上が8歳になってから、こんなに安心して人を側に置くのを見たのは初めてです。」


「8歳になってから?」


「フィルテ。」


「はいはい、言いませんよ~」


フィルテはいたずらっぽく後退し、そして一瞬で淑女の姿に戻った。


三人は馬車に乗り、帝都への道を進んだ。道中、誰も言葉を交わさなかった。


フィルテは途中、ローン家の領地を通り過ぎたところで馬車を降りた。


「では、兄上、また会いましょう。」

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冥界から帰還した魔法天才、魂を喰らう能力を得る @NaKiTiSu

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