第5話 ティータイム
ズズズ
村長さんが出してくれたお茶を啜る。
結構美味しいな。
「このお茶、すごく美味しいです。」
素直な感想を告げると、村長さんは得意げな顔で口を開く。
「そうだろう?」
「その茶に使われる葉はうちの村で採れたものなんだ。」
はえー、ここに来るまでに野菜が沢山育てられてるのは見てきたが茶葉も育てていたのか。
姉さんへのお土産にでも買っていこうかな、買えればだけど。
「自己紹介がまだだったね。」
「私の名前はケローナ、呼び方はケローナでも村長でも好きにせい。」
「では、村長さんで。」
「んじゃ、早速本題に入るとするかね。」
「お前さんは何故聖剣の情報を求める?」
何故、か。
「欲しい剣があるんです。」
「それが聖剣であるかは分からないですけど。」
「ふむ、そうか。」
え、それだけ?
理由聞いておいて「そうか」とだけ返されることとかある?
「ん?」
「なんだい変な顔して。」
「いや、理由聞いてもほとんど反応しないので...」
「あー、すまんな坊主。」
「正直お前さんが聖剣を求める理由なんてあんま興味ないんだ。」
「ほ、本人を目の前にして言います普通?」
「っはっは、歳をとって色んなことに対する関心が薄れてしまったのかもしれんな。」
「まあいい、聖剣のことについては教えてやるから安心せい。」
「ただちょっと久しぶりに聖剣について聞かれるもんだから何から話そうかと考えていたんだ。」
聖剣の噂が廃れていったのは情報通りだったか。
集落の人に聞いても何も知らなかったくらいだ、僕みたいな人なんてウン10年ぶりとかの話なのかもしれない。
「まず聖剣の場所に関してだが、坊主、ここまで来たくらいだ、地図くらいあるだろう。」
「出してくれ。」
「あ、はい。」
リュックサックの中から地図を出し、村長さんへ手渡す。
「ここだ。」
村長さんが指した場所はここから20分程度歩いたところにある山間部。
「意外と近いですね。」
聞き込みをしても誰1人として知らなかったくらいだ、もう少し遠い場所にあるのかと思っていた。
「次に聖剣についてだが、あれは誰1人として鞘から抜くことが出来ん。」
「少なくとも今まで挑戦してきた中に抜くことが出来たやつはいなかった。」
「そうですか。」
もとより持っていた情報と同じ、どうやら僕の1000マニーも無駄金じゃなかったらしい。
「そして私から言えることはこれで以上だ。」
「え」
少なくないですかね?
聖剣の特徴について今まで知っていたことから何一つ増えていないのですが。
「残念ながら誰も抜けていないもんで、大したことは知らんのだよ。」
鞘から抜けたことのない剣、つまり今まで誰1人として使えなかったということだ。
それではなんの効果があるだとか、どんな性質があるだとかも解るわけがないか。
得られた情報は少なく感じたが、場所は教えて貰えたんだ。
後は自分で見てみればいい。
「場所が知れただけでも十分ですよ、ありがとうございました。」
「聖剣とは言ってるが今まで聖剣らしい一面を見たこともない。」
「好きにするといいさ。」
ズズズ
僕は残っていたお茶を飲み干す。
「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
そう口にする村長さんはすごく嬉しそうだ。
聖剣に関してはどうでも良さそうだったのに。
よく考えたらあの情報の量的にお茶を貰う必要もそんなに無かった。
村長さん、さては自分の村のお茶を自慢したいから僕を家に入れたな。
ま、実際このお茶すごく美味しいんだけど。
「このお茶ほんとに美味しいです、お土産に買うことってできたりしませんかね?」
「ほう、そうかそうか。」
めっちゃ嬉しそうだなこの人。
「茶葉なら用意すればある。」
「旅人なんてそうそう来んから販売はしてないが、適当に見繕って譲ってやるよ。」
姉さんへのお土産、ゲットだぜ。
「ありがとうございます。」
「帰る時にまたここに寄ってくれ、その時には準備しておく。」
その後はお茶と情報のお礼を言って、村長さんの家を出た。
「では。」
そう言って聖剣のありかへ向かおうとすると、後ろから声をかけられる。
「ああそうだった、坊主!」
「ここら辺は野良犬が出るんだ、ちょいと気をつけてきな。」
「野良犬、ですか?」
そりゃあこの山に囲まれた風景を見ればわかる。
野生動物くらいいるだろう。
「それもちとばかし凶暴なやつなんだ。」
「お前さんが冒険者だったとしても気をつけておいた方がいい。」
一介の冒険者でも気をつけた方がいい野良犬...。
そんなのがいるのか。
だとしたら、冒険者の中でも弱い部類に入る僕は特に気をつけておくべきだろう。
何か臭いものでも持っておくべきか。
「ご忠告、感謝します。」
「それでは。」
それ以上後ろから声がかかることは無かった。
僕はまだ見ぬ聖剣に思いを馳せ、歩いていく。
聖剣のことを尋ねてきた青年の背中が小さくなっていくのを見ながら老婆は呟く。
「茶葉を褒めてくれた礼だ、忠告はした。」
「結末はどうなってもいいが...そうだな。」
「墓の準備でもしておくかね。」
流石にそれは失礼すぎるわな。
老婆は少し、反省した。
鞘より抜けぬ聖剣使い〜『妄執者』と呼ばれし少年は、魔法の剣を極めんとす〜 @tomato4040
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