約束を映画で考える。
約束を映画で考える。
その人はかつて言った。真向かいに座り、テーブルに肩肘をつき、遠く、遥か遠くを見るような目で。
あの映画、お約束な内容ばかりだった、と。まず全体的な物語の展開にまったく意外性がない、起伏はあるけどそれは定型的なもので、各所の場面転換の際の刺激も弱い。登場人物の性格はありきたりな味がない、味無し映画だ。それに、いつも主人公の危機には整合性の欠損した理屈な強い助っ人が現れ、相手を蹴散らして解決する。運が左右する分量が多い世界だ。さらに、途中、明かされる敵に正体は主人公の生き別れた父親だった。そして、序盤、中盤と、銃撃戦の場では、弾丸の嵐に襲われたにもかかわらず、主人公には弾が一発もあたらない、かすりもしない、銃口からは硝煙すらくゆっていない。香りがない銃撃シーンが続く。しかし、最後の最後の最後の場面では、逆上した近代戦闘の素人が、うわああ、と悲鳴をあげながら放った拳銃の弾丸が主人公の心臓部へやすやすと当たる。だが、そこにはステンレス製の写真入りの首飾りがあり、弾丸を受け止め、無傷に終わる。お約束満載だ、お約束だけで出来ている。あの映画、袋を裏返して原材料名を確認したら、純度百のお約束と記載しているに違いない。
お約束ばかりだ。
あまりに、約束を守り過ぎて
だが、どうだろうか。約束。約束を守る。
約束を、守れるということ。
もしも、可能なら約束を守れる人と、一緒になりたくないか。ずっと、一緒にいるなら、約束を守れる人の方がいいのではないか。そういう願望が、どこかにないだろうか。記念日の約束も、金銭的な約束、犬の散歩の約束などなど、すべてを守ってくくれる人。
いや、でも、いいのさ、ほんとうはそんなどうでもいいんだ。記念日なんて、まじ、ほんと、どうでもいいんだ。一緒にいてくれるだけでいいんだ。
そうさ、一緒にいてくれるだけ、いいのさ。
そう思う。
そう思え。
と、かつて、その人は言った。
まだ出会っていないだろう、約束された人に会えることを願って。
そして、とりあえず、その約束された人は、わたしではないらしい。
えっせいと、考えて。 サカモト @gen-kaku
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