第4話

「痛っ。てめえ、誰に向かって……」

「やめなさい由紀っ」

 鋭い怒声が鼓膜を切り裂いた。向かいに座る母の形相が般若のごとく瞋恚に燃えていた。

「幸人になんてことするの? そんな乱暴なことするように教えたつもりはない」

「お母さんも目を覚ましてよ」

「目を覚ますのはあんたの方よ。謝りなさい幸人にっ」

 母が言うと父は私の後頭部を掴み、テーブルに叩きつけた。鼻が熱くなり、血が噴き出す。それでも父は私の頭を話さない。

「幸人、申し訳なかった。許してくれ」

 父は泣きべそをかいた声で謝っていた。

「今回は特別に許してやるよ」

 頭を上げ、鼻から血を噴き出した私を見て、幸人は屈託なく笑っていた。

 以来、大学に進学してからは下宿生活を始め、一度も実家に帰ったことがない。子育ての邪魔をするといけないから、と適当に誤魔化している。父も母もしつこく帰省を求めるようなことはしなかった。きっと幸人と、あいつの子どもの世話に夢中で私のことは邪魔になっていたのだろう。

 私が社会人三年目になった年、実家が放火された。家の中からは両親と幼い子どもと思われる焼死体が二つ見つかったという。一人は出生届が出されていないため、警察から何度も事情聴取されたが、私は頑なに「知らない」と貫いた。中年の小人を長年飼っていたなどと言い出したらいよいよ放火犯にされてしまうに違いない。たとえ容疑が晴れたとしても完全に狂人扱いになるだろう。

 あの日のクリスマス、小人の中年の入ったプレゼントをこっそり外に捨ててしまえば、今頃私の人生はどうなっていたのだろうか。それは十年以上経っても考えてしまう。特に今日みたいなクリスマスは。私は隣にいる膝丈ほどしか身長のない彼氏に問いかけるが、押し黙ったまま気まずい空気をつくってしまった。

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クリスマスの小人たち 佐々井 サイジ @sasaisaiji

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