第19話 白薔薇の終焉
倉庫の中、鳴海夕貴は震える手で金庫の前に立っていた。追跡者たちの足音が扉の向こうで近づく中、彼女は覚悟を決めて鍵を金庫に差し込む。
「これが……最後の扉……!」
鍵を回すと、金庫の中から冷たい金属音が響き、中身がゆっくりと現れた。そこには数冊の分厚いファイル、USBメモリ、そして一枚の手紙が入っていた。
手紙にはこう記されていた。
「真実を知る者へ――
この計画は多くの人々の血と涙の上に成り立っている。
だが、この手に入れた真実が、君にとって光となるのか、それとも闇となるのか、それは君自身が決めることだ。
選べ――白薔薇の裁きを下す覚悟があるか。」
鳴海は手を震わせながらファイルを開いた。その中には、政府関係者や企業幹部が関与した再開発計画の詳細、麻薬取引に使用された資金ルート、そして被害者たちの名前が記されていた。
「こんなことが……。」
鳴海の目には涙が浮かんだ。その中には、6年前の白薔薇事件で命を奪われた佐伯美月の名前も記されていた。
「これが……真実。」
一方、倉庫の外では橘が追跡者たちと対峙していた。スーツ姿の男たちは武器を構え、橘を囲む。
「証拠を渡せ。さもなければ、命はないぞ。」
リーダー格の男が冷たく言い放つ。だが、橘は一歩も引かない。
「お前たちがどれだけ隠そうとしても、真実は明るみに出る。」
橘は静かに言い放ち、周囲を冷静に見渡した。
男たちが動き出す瞬間、橘は地面にあった鉄パイプを拾い、一気に間合いを詰めた。一人目の男の腕を叩き落とし、その隙に次の相手に蹴りを入れる。
「奴を止めろ!」
リーダー格の男が叫ぶが、橘は次々と男たちを倒していく。その動きは冷静そのもので、隙がない。
だが、リーダー格の男が拳銃を取り出した瞬間、橘の動きが止まる。
「これ以上動けば、命はないぞ。」
金庫の中身をバッグに詰めた鳴海は、扉の外の騒ぎを聞いて立ち止まった。橘が追手を食い止めていることは分かっていたが、彼女の心は揺れていた。
「証拠を持って逃げるべき……でも、橘さんを見捨てるなんて……!」
鳴海は震える手でバッグを抱きしめたまま、自分に問いかける。彼女はふと手紙の最後の一文を思い出す。
「覚悟があるか。」
その瞬間、彼女の中で何かが弾けたようだった。鳴海はバッグを抱えたまま扉を開け、外に飛び出した。
鳴海が外に出ると、リーダー格の男が拳銃を橘に向けているのが目に入った。彼女は咄嗟に叫んだ。
「待って! 証拠はここにある!」
男たちの視線が鳴海に集中する。リーダー格の男が冷たい笑みを浮かべながら言った。
「賢明な判断だ。そのバッグを渡せ。」
「……渡します。でも、その代わり、橘さんには手を出さないで。」
鳴海の声は震えていたが、彼女の目には強い決意が宿っていた。
橘が鳴海に向かって叫ぶ。
「鳴海! お前……!」
鳴海はバッグをゆっくりと地面に置いた。男たちがそれを拾おうとした瞬間、彼女は懐に隠していたペッパースプレーを取り出し、リーダーの顔に向かって噴射した。
「ぐっ……!」
リーダーが叫び声を上げ、他の男たちが動揺する中、橘が再び動き出した。男たちを次々と倒し、ついにリーダーを取り押さえた。
男たちを無力化した後、橘と鳴海は倉庫の中で改めて証拠を確認した。ファイルとUSBには、これまで隠されていた全ての真実が記されていた。
「これで奴らを追い詰められる。」
橘が静かに言った。
「でも、これを公開したら……きっと大きな混乱が起きます。」
鳴海は不安そうに呟いた。
「混乱を恐れて真実を隠すのは奴らと同じだ。」
橘は力強く言った。
「俺たちの仕事は、真実を明らかにすることだ。」
鳴海は深く頷き、USBを握りしめた。
「……やりましょう。」
数日後、白薔薇計画の詳細が新聞やニュースで大々的に報じられた。政府や企業幹部の不正が暴かれ、再開発計画は白紙撤回。麻薬取引のルートも摘発され、多くの関係者が逮捕された。
鳴海と橘は、警察署の一室で静かに報道を見守っていた。
「これで終わりましたね。」
鳴海が微笑みながら言うと、橘は短く頷いた。
「いや、終わったのは一つの事件だけだ。俺たちの仕事はまだ続く。」
橘は言葉を残し、立ち上がる。
鳴海は静かにその背中を見送り、心の中で呟いた。
「6年前の白薔薇事件で奪われた命も、これで少しは報われるはず……。」
外の空は、朝日が昇り始め、新しい一日の光が世界を照らしていた。
【読者参加型 刑事小説 毎日17時更新】The End of Justice 湊 マチ @minatomachi
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