第7話 勘違い
城門を抜けると広場が広がっており、そこには馬車がずらりと並んでいた。アギルべはそこへ幌馬車を停め、「大通りはこっちだ」と案内してくれた。大通り沿いにはレンガや切り出された石で作られた住宅や酒場、宿屋など多くの建物がずらりと並んでいる。そして、その大通りにはルーベスがこれまでに見たことのないほど人々がそこらかしこを行き来している。警備で街を巡回している衛兵や買い物をしている女性、そして大通りの奥からその人々をかき分けて、一匹の赤い大トカゲがルーベスをめがけて足をペタペタとさせながら忙しなく走ってくる。
「ルスアああああ!」
そう叫びながら大トカゲは少年の胸に飛び込み、その衝撃でルーベスはしりもちをつく。
「お、おい!大丈夫か!」
「ルスアぁ……ルスアぁ……」
人語を話す大トカゲは泣きながらルーベスのことをルスアと呼び、胸に頭を擦り付ける。
「君もこっちの世界に召喚されてしまってたんだね……見つけられてよかったよ!でも人間も召喚しちゃうなんて……」
「あ、あの……」
「なに?ルスア」
「えっと……僕、ルーベスです……。多分人違いなんじゃ……」
「そ、そんなはずはないよ!顔も体も声もルスアじゃなか!ほんとに僕を覚えてないの!?エイルだよ!君が名前を付けてくれたんでしょ!あ、そうか、きっと強引な召喚儀式だったんだね……。かわいそうに……。そのせいで記憶が混濁してるんだ……」
大トカゲがルーベスに捲し立てているのを見て、アギルべは少し苛立ちを含んだ声で話し始める。
「おい、トカゲ。そいつはルーベスだ。召喚はされてねぇし、もちろん記憶障害もねえ。そいつにはちゃんと過去がある。お前の言っているルスアじゃないぞ。わかったらどきな、ルーベスが苦しそうだ」
アギルべがそういうと自身をエイルと語った大トカゲはルーベスの苦しそうな顔をみて、ルーベスの上に覆いかぶさっていた体をゆっくりと下した。
「ごめんなさい……。でもどういうこと……。僕にはルスアにしか……」
そう言っていると大通り奥から魔法使いらしき男がこちらへ息を切らしながら走ってくる。
「ハア、ハア……。おい、エイル……!急に走り出して……どうしたんだよ……!」
「ハイゼン!前に言ってたルスアがこっちの世界に召喚されてたみたいなんだけど、彼がルスアじゃないって……」
「待て待て、一回落ち着け。まず、この世界に人間をあっちの世界から召喚する術はまだ編み出されていない。だからこの子はこっちの世界の子だよ」
「そ、そんな……ようやく会えたと思ったのに……」
大トカゲのあまりにも悲しそうな言動にルーベスは思わず「なんだか、ごめんね……」とエイルの赤くきれいな鱗の生えた頭をなでる。
「謝らなくていいよ。もとはと言えば、こいつが早とちりで誤解してただけなんだから。ほら、エイル。君が彼に謝るんだ」
大トカゲはルーベスの方へ向き直り、低い位置にある頭を地面につきそうなほどぺこりと下げ、しょぼくれた声で「ごめんなさい」と言った。しかし、状況が全くつかめないルーベスとアギルべが口を開く。
「あー……、話が全く分からないんだが、とりあえずルーベスがルスアって奴じゃないってことはわかってもらえたのか……?」
「それにあっちの世界、こっちの世界って……?」
「うーん……。そうだね、軽く説明をしたほうがいいか。どこか座れる場所に行こう。じゃあ、ついてきて」
するとハイゼンと呼ばれていた男を先頭に商人、魔法使い見習い、赤い大トカゲという奇妙な組み合わせで歩き出した。
僕は今日旅に出る 青いアサリ @AoiAsari
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