第21話 病気の真実

 世界は異常な状況に陥っていた。病気が突如として広がり、患者の苦しみが増幅されるような現象が至る所で報告されていた。病気の原因を突き止める医師たちは苦戦し、恐怖と混乱が社会を覆った。


 「これ以上、何もできないのだろうか……」


 マナミも、自分の限界を痛感していた。




 ある日、マナミのもとに謎めいた声が届く。それは、病気そのものからのメッセージだった。


 「私たちは病気。お前たち人間の内側から生まれた存在だ。」


 その言葉に驚きつつも、マナミは静かに耳を傾けた。


 「私たちは罰ではない。お前たちに気づいてほしい――お前たちが互いに切り離され、心を閉ざしてしまったことを。」


 マナミは仲間たちとこの声の意味を探り始めた。病気は単なる身体の異常ではなく、人々が無意識に作り出した歪みの象徴だったのだ。




 マナミたちは、病気の声を正しく伝えることが自身の使命であると確信した。


 「病気の言葉を恐れるのではなく、受け入れ、その真意を知ることが大切なのね。」


 患者たち一人ひとりに病気の声を伝える中で、彼女たちは人々が自らの心に向き合う勇気を取り戻していくのを目の当たりにした。


 「絆が治癒をもたらす」という言葉が、次第に人々の間で広がり始めた。




 マナミの活動はついに国際的な規模に広がった。世界中の語り部や医療従事者が集まり、病気の声を受け入れるための対話の場を設けた。


 そこに登壇したマナミは、こう語った。


 「病気は苦しみではありません。それは、私たち自身の心と体からのメッセージです。互いに心を開き、助け合うことで、初めて病気は癒されるのです。」


 その言葉に多くの人が耳を傾け、涙を流した。




 しかし、すべてが順調に進むわけではなかった。病気のメッセージを否定し、恐怖心から病気を「消し去る」方法にこだわる勢力が現れた。


 彼らは「語り部」の活動を妨害し、病気をただ排除しようとする。


 「病気を否定するだけでは、再び同じ苦しみが生まれるだけだ……!」


 マナミは懸命に訴えたが、状況は一向に好転しなかった。




 そんな中、病気の声が再びマナミに届いた。


 「お前たち人類が気づけるかどうか、我々は最後の賭けに出た。」


 その言葉に込められた思いを受け取り、マナミは涙を流した。


 「病気は敵じゃない……私たちに生き方を問いかけてくれているんだ。」




 マナミは語り部としての最後の宣言を行う。


 「病気は終わりではなく、始まりです。私たちが心を開き、互いを理解し合う第一歩です。」


 その言葉を聞いた人々は、少しずつ変化し始めた。病気に向き合い、病気の声を通して他者との繋がりを再確認するようになった。




 朝日が昇る中、マナミは静かに微笑んだ。


 「病気が私たちに教えてくれたことを胸に、これからも歩んでいこう。」


 希望に満ちた新しい未来を予感させながら――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

語り部の医師 ~病が教える癒しの物語~ まさか からだ @panndamann74

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ