第20話 語り部の医術の危機

 マナミは連日、語り部として病気の声に耳を傾け、患者たちの治療に全力を注いでいた。しかし、ある日突然、彼女の中に違和感が生まれた。


 いつもは鮮明に聞こえるはずの病気の語りが、ぼんやりと不明瞭になっていたのだ。


 「どうして……?」


 次第に、患者の病気の声がうまく聴き取れなくなり、解釈も曖昧になる。焦りと不安が募る中、マナミは自分の無力感に押しつぶされそうになっていた。




 そんな中、ある重症患者が訪れた。その患者は若い女性で、複数の病を併発しており、どれも原因不明だった。


 マナミは患者に手を触れ、語りに耳を傾けようとしたが、心に届く声はただのノイズのように散乱していた。


 「このままでは、私は語り部としての役目を果たせない……」


 無力感に苛まれたマナミは、自分の医術に対する自信を失い、医師としての存在意義まで揺らぎ始める。




 マナミが一人で悩みを抱え込んでいたとき、音楽療法士のリオがそっと彼女の前に現れた。


 「マナミ、ひとりで全部背負おうとしてない?」


 その言葉にハッとするマナミ。リオは、彼女がこれまで抱えすぎて疲れていることを見抜いていた。


 さらに、恩田博士や他の仲間たちも次々と訪れた。カイリスは厳しくも温かい口調で言った。


 「語り部の医術は、ひとりで完璧に全てを成し遂げることではない。お前には仲間がいる。お前が聴き取れない声は、私たちと一緒に解き明かせばいい。」


その言葉に、マナミの心の中に少しずつ光が差し込み始めた。




 再び若い女性の患者の元を訪れたマナミは、リオの提案で音楽療法を試してみることにした。静かなピアノの音色が病室に響く中、患者は少しずつリラックスし始めた。


 その瞬間、マナミの中で再び病気の声が僅かに聴こえ始めた。


 「一人で抱え込むな。心を開けば道が見える。」


 マナミは患者にその言葉を伝えた。


「 あなたの病は、孤独や恐れに満ちた心が原因の一つかもしれません。一緒に、その重荷を少しずつ軽くしていきましょう。」




 仲間たちと協力し、患者の心身に寄り添う治療を続けた結果、若い女性の体調は少しずつ回復に向かった。そして何より、マナミ自身も自分の中の葛藤に一つの答えを見つけていた。


 「語り部としての限界を感じたとき、それは私が成長する時でもあるんだ。」


 マナミは自分の弱さを受け入れ、仲間と共に歩むことの大切さを実感した。彼女は以前にも増して深い愛情と信念を持って、患者たちと向き合う決意を新たにする。

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