自分が人間ではなくヒューマノイドであることを知らされた主人公オルドは、自身のアイデンティティーに疑問を抱きつつも、盗難されたプロトタイプ型ヒューマノイドロボット・ノヴァの脳器(コンピュータ)の行方を追い続けます。
ばりばりのハードボイルドSFかと思いきや、怒り、悲しみ、葛藤、様々な感情が交錯し、そのたびに人間とは? 生命体とは? を考えさせられます。
複雑な国際情勢が絡み合い、科学、哲学、倫理学、日本神話等々、一見するとSFとは無縁と思われるエッセンスが違和感なく絶妙に融和し、作者さんの筆力の高度さにも脱帽です。
オルドにも喜怒哀楽はあるのです。人間だもの!
舞台はヒューマノイドが社会に組み込まれた未来の日本。
人間に限りなく近づけて作られたロボットが自我を宿した時、それは生命と呼べるのか。その答えを自我を宿したヒューマノイドであるオルドとノヴァを通して模索していく、哲学的SFヒューマンドラマであると感じました。
ヒューマノイドが適応した社会の在り方。
そんな世界を作り出す人間の思想と欲求。
作られた者たちの行き着く先。
科学技術のロマンを存分に堪能しながらも、ふとした時にぞくりと感じる生身の質感。この塩梅が絶妙で、終始飽きることなく読み進めることができました。「なんでやねん」とアザラシに癒された読者は私だけではないはず(読めばわかる)
SF特有の小難しさを読者に感じさせず、それでいて骨太で本格的な世界観を構築しているのは作者様の筆力の賜物かと。
彗星爆発を天岩戸伝説などの民俗学に基づいて解釈するのも個性的で面白かったです。
そう遠くない未来、この作品のような時代が来るのかもしれません。
その時、私たちは隣にいる「誰か」の手を握ることができるのか。この作品を通して一緒に考えてみませんか?
自我を持ったプロトタイプ型ヒューマノイドロボット・ノヴァの脳器(コンピュータ)が盗まれ、REX社の秘密部隊に属するオルドが後を追う――そんな、疾走感のある骨太のSF小説です。
この小説に出てくるヒューマノイドの外見は、人と区別がつかない程に精巧です。
あらすじにも書いてあるのでネタバレにはならないと思いますが、人間だと思っていたオルドが、実はヒューマノイドだったとわかるシーンではゾッとします。なにしろ、オルガ自身そのことに気づいてなかったのですから。
ヒューマノイドが自我を持つとはどういうことなのか?
ヒューマノイドに生命はあるか?
作品のなかで様々な疑問が論じられ、難しいと思いながらも考えさせられます。
自我を持ったノヴァとオルガの未来はどうなるのか。
最後まで読んだときの満足感がたまりません。
ぜひとも読んでみてください!
この物語は、ヒューマノイドで溢れかえった近未来を舞台としたSF小説でありながら、自分は何としてどう生きるか、読み手にそう強く訴えかけてくる重厚なヒューマンドラマでもあります。
原因と結果、それと行動が何の狂いもなくイコールで結ばれる。それがロボットやヒューマノイドのある種定義として定められてはいますが、もし彼らに感情があり、そのうえ自我があったとしたら。
この物語の主人公であるオルドは人として生きてはいましたが、ある日を境に自分はそれではないという事実を突きつけられ、自らの存在やこの世界で生きている理由を、裏切りや策略などと幾つもの障壁を乗り越えながらその答えを追い求めていきます。
作者様の書かれた文章は情景描写が繊細かつ丁寧で、そのうえ物語を展開していくその構成力は圧巻で、まるで一本の映画をみているかのような壮大さと満足感があります。
SF小説は小難しい話ばかりが続くと何かと敬遠されがちですが、そのような事は一切ありません。むしろこの物語の展開していくスピードと壮大な世界観に、きっと読む手が止まらなくなるはずです。
是非御一読下さい。
ずっと自身を人間だと思っていた主人公。
けれどある日、自分がヒューマノイドだと知らされた。
人間不信に陥りそうになる場面だけれど、冷静に対応する姿は、彼をヒューマノイドだと認識させられる。
けれど自我を持ったが故に、突きつけられる現実と罵倒、裏切りに傷ついていく。
それはおそらく同じ自我を持ったヒューマノイド、ノヴァも同じだったのだろう。
様々な葛藤の末、導き出した答えは義務だった。
その姿もまた、オルドと同様に痛々しい。
けれど、そんなノヴァの感情は、REX社に恨みを持つ山川たちに利用されてしまう……。
人間が一人では生きていけない生物であるように、自我を持ったヒューマノイドもまた同じ。
憎しみや悲しみを感じるように、我が儘で自分勝手な感情も持ちえている。
悩み、苦しんだ二人が導き出した答えを、是非、読んでみてください。
AIが身近な存在になってきたからこそ、こういう未来もありえるかもしれない。
そのとき、自分達はAIとどのように向き合っていくべきか。とても考えさせられるお話でした。
そして、このお話はAI側にあたるヒューマノイドであり主人公のオルドの視点で繰り広げられるお話です。
どうして自我を持ったのか。ヒューマノイドでありながら自我を持った自分は何者なのか。葛藤しながらも人間達と向き合い、ヒューマノイドと向き合い、その答えを探していきます。
読んでいて「ああ、そうだよね」と思ったのは、人間もヒューマノイドも、在り方が違うだけで根本は同じなのだということ。
自我を持つのも、至極当然のことなのです。
非常に読み応えのあるSFであり、人間ドラマのお話となっています。
丁寧に描かれた世界観にどっぷりと浸かりながら、AIとの未来に思いを馳せてみませんか。
自我を持ったヒューマノイドと人間の違いは、どこにあるのだろう。
この作品は紛れもなくSFで、そしてその中で、「人とは何か」を常に問いかけているようでもあった。
人間とは、何なのだろう。何があれば、人間といえるのだろう。
それこそ昨今技術の発達が進んでいる。人工知能の研究も進んでいる。その中で、ではどこで人と機械の線を引くべきか。
もちろんこれは、何度となく描かれてきたテーマだろう。ただ本作はそこに、民俗学や神話が絡んでくる。これを絡められることこそが、作者の力量と言えるだろう。
大きな問いに対して、最後には晴れた青空が広がっていく。貴方はこの作品で、どのような答えを見出すだろうか。
もちろん、答えは分からないままでも良いのだけれども。けれどいつかきっと、答えが必要になる時が来るのだろうと、そんなことを思った。
ぜひ、ご一読ください。
外傷性脳損傷を受け、長いこと眠りについていたオルドは、軍を辞めて世界最大手のヒューマノイド製造企業・REX社に勤めていた。
そんな中、プロトタイプ型ヒューマノイドロボット・ノヴァの脳器が奪われる。
ノヴァに取って代わる新しいAIが誕生し、既に役目を終えた彼女を盗んだのは、『山川敦』という男。
なんとノヴァには、自我が宿っていたのだ。
ほとんどがヒューマノイドで構成される裏組織「HRP部隊」。その隊長であるオルドは、ノヴァを取り返すよう命じられ、山川を追い詰める。
「かわいそうに。何も知らないまま私を追ってきたのだろう」
――撃たれたオルドから流れていたのは、青い血だった。
オルド。本名はジャック・ホワイト。
しかしオルドは代替人間ロボット、すなわち、『オルタナティブ・ヒューマン』だった。
彼が眠っていた間、人工知能に記憶を定着され、人工知能は自身を『ジャック・ホワイト』と定義したのだ。
だが、そうさせた最愛の母アンナの対応は、彼の記憶とは程遠い姿だった。
「ロボットに職を奪われた」として、「日本を取り戻そう」とテロ活動を行うハイマートロス。それを扇動し、REX社を潰そうとする山川。
「言ったはずだよ。我々は弱者だと」
母親から「失敗作」と突き放されたオルドは、自分とよく似た存在であるノヴァと対話し、山川と行動を共にすることになる。
そして謎の存在、『スサノオ』を追いかけることに。
『スサノオ』とは、一体何を指すのか。
なぜ人間は、人間に似たものを作り、そして拒絶するのか。
ノヴァやオルドがこれから目にするものは、なんなのか。
ヒューマノイドが、人間が、己の自我や自意識を証明し、本当の『自由』を手にすることは可能なのか――。
SFと日本神話をモチーフとして描かれつつも、今の我々に問いかけるような物語です。
一章読了時点でかなり面白いのでレビューさせていただきます。
本作は近未来の日本を舞台とした硬派なSF作品。
主題となるのは自我を持ったヒューマノイド。
ここまでは昔から語られてきた普遍的なテーマだが、そこに日本的要素、アニミズムが加わり独特の世界観を演出してくれる。
往年の攻殻機動隊のような世界観がドンピシャな世代としては堪らない設定だ。
また、AI技術が日々進歩していくなかで、同種のSF作品達より、更に来るべき近未来が近く、もしかしたら?の感覚が非常にリアルを帯びてくる。
今だからこそ、一読してみては如何だろうか?
私もこれから、この世界にドップリと浸かろうと思う。
鉄腕アトムの時代から、フィクションでは自我を持つロボットの人権は何度もテーマになってきました。
果たして自我を持つ存在が人類以外に現れた時、人類は自らの特権をその存在に対しても許容するのか?
令和の今に書かれたこの物語では、今の私たちがその問いに対してどう考えているのかを透かし見ることができます。
ほかにも、自我を持つ存在を自分たちの都合で生み出すことの手に負えなさ(ごめんなさい。適切な語彙が見当たりませんでした。厄介さと計り知れなさなど、正にも負にも大きく膨らむ可能性を指して手に負えなさ、と呼ぶことにします)などは、昨今の反出生主義と対比して読んでも良いかもしれません。
アクションやストーリー展開も魅力ですが、それらを味わいながらテーマが内包する問いを自然と考えてしまう、そんな魅力に満ちたよい物語です。
壮大なSF小説。
長編映画を見たような満足感があります。
ヒトをヒトたらしめるものは、と聞かれたら大部分の人は「心」。即ち感情について言及することでしょう。
そういった部分に本作は切り込みます。
感情を持つようになったヒューマノイド。
だったらそれはヒトなのか。
それとも感情なんてものは外部情報から自動生成される、データでしかないのかもしれない。
現代社会で少しばかり問題になったAI関連の話を思い浮かべながら読ませていただきました。
作品の設定や、属性上やや難しい定義や用語は出てくるものの、それ以外の部分を分かりやすく明瞭にされているので、読みやすくもある作品です。
神話、民族学、近未来SF、ヒューマノイド、個体と集合体……
物語を彩る要素は数多くとも、偏りすぎ、押し付けすぎにならずに円環となってあるテーマを示しています
自我、そしてそこから連なる関係性
一言で言えば人間関係を、『では人とはなんなのか』という視点から
哲学的、かつ自然な心理描写、ストーリーラインで追い求めています
難しいと思われがちなテーマを重苦しいものにさせず、むしろ探求心を掻き立てる描写が特に秀逸です
技術的に進歩した世界観で魂の所在を追い求める、そこに一種の欲深さを感じてしまいます
この世界観にどっぷりと浸ってください
元米国海兵隊員であるオルドは、日本に本社を持つ大手ヒューマノイド製造企業・REX社に勤めていた。彼は盗難されたプロトタイプ型ヒューマノイドロボット・ノヴァの脳器を回収するため、秘密部隊を率いて山川という男の捕縛に向かう。しかし、その先で重大な真実を突きつけられ、アイデンティティの危機に陥るのだった。
常に興味を引く、驚きのあるストーリーに引き込まれました。まるで洋画のような雰囲気で、1話ずつの文字数に対して非常に読み応えがあります。
序盤の衝撃的な事実により、オルドの視点で読んでいた私自身の「信じていたもの」もひっくり返され、より自分事として物語に没入できたように思います。個人的に「水槽の中の脳」を思い出しました。
人間がヒューマノイドに職を奪われる近未来、ヒューマノイドが自我をもったら? ヒューマノイドと人間の違いとは?
そんなSFらしい問いかけの中心には、自分とは何か?という個人単位での葛藤、そして、人間とは何か?という人類全体の課題があるように感じました。
AIと人間を比較することによって、より人間に対する理解が深まる感覚があり、その先で物語がどんな着地を見せるのか、非常に楽しみです。
随所から見受けられる作者様の知識の深さには驚かされると共に、知識欲をくすぐられました。また、所々に挟まれる文学的な表現にとても美しさを感じました。
様々な領域の絡む、重厚な作品です。言葉を尽くしても、魅力すべてを正確に伝えることは難しいです。
ぜひ、多くの方に実際に読んで、この世界観にどっぷり浸かってほしいです!
(※「第22話 スサノオの正体」までを読んでのレビューです)
ヒューマノイドが自我を持つ作品は映画を含めてすでに多数ありますが、ここに付喪神といった日本的アニミズムが加わっている点がとても新鮮でした。また、不老不死を「人魚の肉を食べたように」と表現されていたりと、その他の民俗学的要素が自然と入ってくるあたり、この作品は作者様ならではの特色がふんだんに込められているものと感じます。
拝見したのが3万字程度なのでまだまだ冒頭、謎に次ぐ謎といったところですが、文章が非常にこなれて読みやすく続きが気になりました。
完結した際には改めて読みに伺おうと思います。SF好き、一般小説好きな方におすすめできる、とても楽しみな作品です。