クリームソーダ

 雨のそぼ降る昼下がり、駅前に佇む純喫茶の窓際に座って、硝子を伝う水滴を眺めていた。傍に畳んだカーディガンは冷たい湿気を纏って、文鎮のように私を引き留めている。テーブルには二杯のクリームソーダが丁寧に並べられていた。


 暗い空を横目に、ストローで少し口に含む。舌を刺す炭酸と、甘味料の味。口の中に纏わりついて離れないそれを、同じ甘さで押し流す。混ぜるたびからからと音を立てる氷の冷たさが、喉の奥のほうまで染み込んだ。


 甘い溜息を吐いた。肺に残る冷え切った空気のせいか、吐息は微かに震えていた。暖房で結露した窓の、結露越しに眺める人波に、君の姿は見当たらない。


 コップに視線を戻すと、既にアイスクリームが溶け出していた。少し味が変わっただろうかと、ストローで混ぜたそれをまた一口飲んだが、炭酸が少し抜けていて、鬱陶しいくらいに甘ったるい。


 一口、また一口と飲み進める。溶けた氷とクリームで濁った甘味が、ずっと口の中に蔓延っている。その人為的な甘味は、サクランボの風味さえ掻き消した。そぼ降る雨が止んだ頃、私はぬるくなった微炭酸を飲み干した。


 果たして、君は来なかった。テーブルには空のコップと、クリームソーダだったもの。どろどろとした緑色の、淡い期待をそこに置いたまま、喫茶店を後にした。どうしようもなく甘ったるい後味が、乾いた喉に絡みついていた。

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習作 楓雪 空翠 @JadeSeele

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