第10話

 ひとまず、日和を保健室へ運び、保健の先生に診てもらう。日和は⋯⋯相当体力を消耗させていて、危なかったらしい。

 ⋯⋯日野達⋯⋯信じられない。人を、殺すような真似⋯⋯。

 ⋯⋯日野達に、日和へ謝ってもらいたい。

 “俺”は見えないから、一条くんにそれはやってもらわなきゃいけないけど。


 ⋯⋯あ。一条くんはいじめのこと、知らないんだ。


「⋯⋯一条くん、外出よ、一旦」


 ここは先生もいるし⋯⋯外で話そう。


 外⋯⋯まあ、保健室から少し離れたあんまり人が来ないところ⋯⋯で話し出す。


「どうしたの?」

「一条くんは知らなかったと思うけどね⋯⋯日和、いじめられてたんだ」

「⋯⋯え?」


 素っ頓狂な声だ。まあそりゃそうか。知らなかったんだし。


「一条くんが日和にアピールしまくるからね。女子からの反感を買ってたんだよ」

「⋯⋯俺か⋯⋯」


 『俺のせいでっ⋯⋯!』⋯⋯全く。⋯⋯一条くんも同じかあ。


「でも、いじめがあったなんて誰も⋯⋯」

「誰も言えないよ、そんなの。一条くんにね」


 本人に、誰が言えようか。傷付くのが分かっている。そんなの、言えない。⋯⋯でしょ?


「気付けなかったのは⋯⋯まあ、仕方ないよ」

「⋯⋯」

「多分、今回実行したのは日野達かな」

「え」


 ⋯⋯そこも驚くんだ。


「⋯⋯日野さんのとこ、行こっか」

「うん」


 ⋯⋯きごちなくこちらへ向けた、どこかつっかかっているような笑み。

 ⋯⋯もう、その顔は見たくないのに。


「⋯⋯日野ゆりあさんいる?」


 日野のクラスに⋯⋯あ、いた。

 その姿を見たら⋯⋯ふつふつと、さっきも湧いていた怒りがもっと、湧いてきた。


「陽太くん〜、どうしたのっ??」


 ⋯⋯日野が一条くんに甘い声を出すのも、好意を寄せるのも、全てが、気に入らない。


「⋯⋯日野さん、こっち。あ、君達もね?」

「「「え?」」」


 ⋯⋯一条くんが日野と、いつもその周りにいる取り巻き2人も呼びつけた。


「⋯⋯ねえ、君達が後藤さんに水かけて、放っておいたの?? ねえ」

「あ、いや、私はそんなこと⋯⋯」


 ⋯⋯私ってなに? 最悪自分だけでも逃げようとしてるの?? 信じられない。


「君らがしたって、分かってるからね」


 ⋯⋯一条くんのカマ、かな。


「っ⋯⋯」

「あっ、あたしは、したくてしたんじゃなくて⋯⋯!」

「私もゆりあに押し付けられて⋯⋯!」


 ⋯⋯お前ら、押しつけ合いは大概にしろよ。

 確かに、事実かもしれない。でもした事実は変わらないんだ。


「2人もノリノリでしてたじゃないの⋯⋯!!

 っ、陽太くんっ、私はしたくてしてたんじゃなくて⋯⋯!!」


 ⋯⋯見苦しい。


「⋯⋯そう」

「⋯⋯一条くん、いいよ、もうこいつら」


 ⋯⋯話してもなんにもなんない。

 そう、痛感した。

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だからこの想いは、伝えない 音羽鈴心 @OtowaSuzune

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