第9話

「あれ〜? 日和まだなのかあ」


 御手洗にでも行ってるのかな。待ってよう。


「一条くんは帰る?」

「んー、ちょっと待ってよっかな」


 はーい、と軽い返事を返す。


「───⋯⋯ねえ」

「⋯⋯うん」

「後藤さん、遅いね」


 ⋯⋯教室に戻ってきてから約15分。⋯⋯流石に遅いよねえ。


「⋯⋯まさか」


『あいつうざいからさ。痛い目見してやろっ』


 少し前に日野が言っていた言葉。まさか⋯⋯あいつって、日和のことか?


「やばい」

「どうした⋯⋯?!」

「⋯⋯日野が。っ、日野が、日和に何かするかも」


 2人で急いで教室を飛び出して、どこにいるのかも分からないのに、ただひたすらに走る。走る。

 っ、くそが。手当り次第に探しても⋯⋯こんなの、見つからない。


 ⋯⋯こういうことするなら、バレない場所でする。バレない場所⋯⋯使われていない北校舎、本校舎裏、器具庫、体育館裏⋯⋯そこら辺か。

 ここから1番近いのは⋯⋯本校舎裏。急げ、急げ。

 多分、同じ思考になっただろう一条くんも同じく本校舎裏へ走り出す。


 ⋯⋯じゃあ、手分けするってことで、僕は体育館裏に行くか。ただ、ここは部活動の生徒がそこへ行かないこともないから可能性は低いけど⋯⋯。


「⋯⋯お願い、いて」


 ⋯⋯そんな願いも虚しく、日和はここにいなかった。

 っ、次!! 器具庫も⋯⋯いないなら、あとは北校舎? 他には⋯⋯どこがある。いや、まずは北校舎。


「っ! ライ!! 器具庫いなっ、かっ⋯⋯た?」


 ここで合流した一条くんも息が上がっている。


「いな、かった⋯⋯! 北校舎、行こっ」


 北校舎は、クラス数が多い。全て、1つずつ扉を開けて確かめていく。


「⋯⋯! いた! 日和っ!!」


 いたのは、3A。


「⋯⋯ら、い?」


 日和は小さな身体を震わせている。


『これ着て』⋯⋯そう、言いたかった。でも、幽霊だから⋯⋯そんなこと、できなかった。


 ⋯⋯というか、これ、日野に水かけられてるよな? こんな、午後まで雪が降っている日に⋯⋯。⋯⋯あいつら、人の心がないんじゃないのか?


「⋯⋯ごめ、ね」


 幽霊の僕なんかじゃ、何も出来なくて、唇を噛んでいたとき。そんな声が、聞こえた。


「⋯⋯らい、が。また、迷惑、かけて⋯⋯」

「っ⋯⋯」


 ⋯⋯雷牙らいが。どうして、日和は、その名前を⋯⋯。


「っ! 後藤さん!! ライ!!」


 俺が運ぶ。そう行って、日和を抱きかかえて急いで保健室へかけていく一条くん。

 ⋯⋯僕が、運びたかった。


 あー⋯⋯僕も、こんな王子様に、なれたならなあ。

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