華と毒に美声に彩られた宮廷ミステリーの名篇

公爵家で催される煌びやかな夜会、失意の底に突き落とされるヒロインの令嬢……

加えて、運河が網の目状に延びる水の都が舞台とくれば、モードに添った「令嬢ロマンス」が始まる予感でいっぱいです。

しかし本作のゴンドリエーレ(=ゴンドラの漕ぎ手)は、ひと筋縄では行きません。プレリュードも短く、現在や過去の不穏な動きが相次いで提示され、読者は程なく“謎めいた運河”に誘われます。

──十年前の手記📙 密偵🕵️‍♂️ 王子毒殺事件☠️ 王位をめぐる暗闘👑

ヒロインは知らぬうちに巻き込まれ、そして勇気を奮って核心に迫ります。精密に構成された謎解き部分には触れることが出来ませんが、実に見事な宮廷ミステリーに仕上がり、エンディングで全ての読者が溜飲を下げるでしょう。

そこに、ヒロインとカストラート(去勢歌手)との“禁断の恋”が絡むところが、本作を唯一無二の物語たらしめています。

事件の解明と恋の行方、縦軸と横軸はいずれも読者を強く惹き付け、読み手は終盤で絢爛たるアラベスク模様を目の当たりにすることになります。

特筆すべきは、作者の知見に裏打ちされた数々の描写で、それは声楽や歌劇に関する詳細な補足説明に留まりません。

「〜島国、ブリタンニア王国は新大陸の植民地経営で潤って(略)優秀な音楽家に高額で契約を持ちかけている〜」(七話より)

架空の国に置き換えられていますが、水の都を取り巻く当時の国際環境を始め、背景は史実に沿ったものと捉えます。楽器や調度品、習慣などを含め、後期バロックの世界観をここまで忠実に再現した日本語の小説は、類例がないでしょう。

これがウェブ上で配信されたことに感嘆すると同時に、決して大上段に構えず、さらりと軽やかに記されている点が秀逸です。

🌊🚣🌊
是非、手練れのゴンドリエーレが操る舟に乗って運河を巡って下さい。最後に素敵な風景に出会えることは確実です。

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