第8話じぶん自身のために

あの日、心が届かなかった。すぐる君の心が、届かなかった。

これは すぐる君から ぼくへのギフトとして届くはずだったのに。

そこに こめられた思いを知らずに、

ぼくが 台なしにしてしまったんだ。


「たすけ君‥、いま、かなしいの?」

そう言うのらねこ お岩のほうが かなしそうだった。


時なんて戻りっこないよ、

あの時と同じ思い出の場所に立っても、

すぐる君は そこにいないじゃないか。


その時、1つのうたが流れてきた。



きみが もういない その事実は

どうしようもないくらい 確かなことなんだよ‥

確かなことなんだとしても‥

その事実を どれくらい くりかえしても

それで おわりじゃない


子どもだったものが 永遠におとなになれるわけが

そんなわけがないんだよ

それなのに 結晶のまま 居留まれずに

すべては こぼれてく



その時、なにかが すーっと現れてきた。

どうして気づかなかったのだろう、

ぼくが朝見たのは、すぐる君だ、すぐる君のまぼろしだ。


でも、まぼろしだからって何度も見れるわけではない、これで最後の気がする。


すぐる君は かなしそうに ぼくを見ていた。


「すぐる君、事故にあったんでしょ。

まぼろしになっちゃたんでしょ。」

のらねこ お岩は泣きそうになっている。


「心配しなくても、大丈夫だよ。いままでのは

なにかが見せていた悪い夢だから。

起きたことではなく、これから起きることなんだ。」


それだけ言うと、すぐる君は消えてしまった。

ふしぎな出来事だった。

目に見えないものを信じられないとひとは言う、

けれど、ひとは その見えないものを

1番に信じて毎日 生きている。


それは、じぶんの心だ。

じぶんの心に映るものだ。


次こそ ぼくは動くだろう、すぐる君のために。

みんなのために。いや、みんなのためじゃない。

なにより、ぼく、自分自身のために。



おわり

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たすけること たすけられること ー届かないじぶんへのギフト のらねこ お岩。白いぼうしの〝お岩に〟 @018

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