第4話 永遠
30メートル……20メートル……。
4速。
加速は続く。
もうすることはない。
ほとんど見て取れなくなった視界の先にゴールがあるだけ。
……10メートル。
勝敗は本人たちが一番分かる。
だから、ゴール地点に人はいらない。
このままじゃ同時だ。
冗談じゃない!
50戦目という、ひと区切りの勝負でドローなんて死んでもいやだ!
勝敗という結末がないなんて、そんなの……あの……あれだ。
そう! そうだ! ゴールのないレースだ! って、あれ?
「ぶっ!!」
俺は最後の最後にきて吹き出してしまった!
のこり1メートルのところで。
分かった。理解できた。
俺は途中から、約束なんてどうでもよくなってたんだ。
「あんた、ゴールの瞬間笑ってたでしょ?」
「ん? そうか?」
「そうよ! なによあれは? 余裕?」
「んなわけあるか! ただ……」
「ただ、なに?」
「いいだろ、別にそんなこと。それより! ……分かってんだろうな?」
「ああ。約束だからね」
ゴール地点から少し進んだ場所。
ここだけ街頭の電球が切れている。
勝ったあかつきには、ここで! と決めていた。
いつもと同じく、エンジンをかけたままで俺達はずっと、車から降りずに喋っている。
同じ方向を向きながらも、こうして会話が成立するのは、左ハンドルと右ハンドルという違いの利点だ。
「ちょっと待って、車寄せるから……」
それを聞いて俺は、サイドミラーを畳む。
準備のできたと同時に、彼女がスーッと接触するギリギリで横付けしてくる。
「これでもまだ遠いわね」
「だな」
届かない距離を詰めるようにして俺達は、開け放っていた窓から上半身を乗り出す。
約束を果たすために。
「でも、まさか最後の最後で笑えるようなやつだったとはね」
「相応しいだろ?」
「まあね。でも、やっぱりというか……」
「え?」
その瞬間。
まるで、有無を言わせまいと、彼女の唇が俺の唇に触れた。
「どう? なにか感想はある?」
「感想というか……確証というか……」
「なにそれ? どういうことよ」
「ん? まあ、いいじゃないか! それより」
ブウゥン!
俺は一瞬アクセルを煽る。
「――もう一本!」
「はあ!?」
「だって、まだ1勝しかしてない」
「あはは! ほんと、バカ!」
”彼女”が、同じようにして一瞬だけアクセルを煽る。
その合図に答えるようにして俺は、180度、911を回転させ、ゴールだった地点に止める。
目の前には、夜が半分になった空がフロントガラスいっぱいに展開されている。
もう少しで夜が明ける。
あと何本走れるだろうか……。
でも。
Everlasting 西之園上実 @tibiya_0724
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます