薔薇色

小烏 つむぎ

薔薇と小鳥

 むかしむかし のちにペルシャと呼ばれる大きな領主国がありました。


 領主の住まう立派な屋敷の真ん中には 年中涼し気に水を吹き出す立派な噴水があります。その噴水を囲むように それはそれは美しい大きな庭園が広がっていました。


 その庭園の東の端の四阿あずまやの隣には 香りのいい白い花を集めた花壇があって、夕方になると四方に甘く魅惑的な香りを漂わせていたのでした。


 香りのいい花の中でも 特にかぐわしい香りを持っているのは純白の薔薇でした。薔薇は 繊細に重なる薄い花びらで花芯を隠し 鋭いトゲで美しい花を守っていました。


 そんな白い薔薇に 恋焦がれたのは 薄茶の小さなナイチンゲールでした。


 ナイチンゲールは毎晩やって来ては 美しい歌を薔薇に捧げました。薔薇はナイチンゲールの美しい声に うっとり聞き惚れるのでした。


 ある日ナイチンゲールが 白い薔薇に言いました。

「もっと近くに行ってもいいだろうか」


 薔薇は言いました。

「ええ、もっと近くに」


 ナイチンゲールは 重なりあう花のそばに寄りました。薔薇のトゲが その胸に刺さりましたが 薔薇を恋うる歌は止めません。


 薔薇はその歌を 花びらをほどくように開きながら うっとりと聞き惚れました。花芯は 恥じらうように薄桃色に染まっていました。


 ナイチンゲールはその花芯に触れようと なお薔薇に近寄ります。鋭いトゲはナイチンゲールを貫きましたが 小さな鳥は命が尽きるまで 愛の歌を止めませんでした。


 小さな鳥の命の色は 純白の薔薇を赤く染めていきます。


 純白だった薔薇は ナイチンゲールを忘れないために そのすべての花を赤く染めたのでした。


 しばらくして 久しぶりに四阿あずまやを訪れた領主は 白い花壇に混じる見たことのない色の薔薇を見て驚きました。


「これはいったいどうしたことか。この花壇には香り高い白い花のみ植えよと命じたはず。


 しかし この花の色はなんと美しいことか。ただのピンクではない。まるで真紅を涙で薄めたような 魅惑の色だ。

おお、そうだ。以後この色を薔薇色と呼ぶこととする」


 これがのちに ローゼ ダマスクス と呼ばれる薔薇となるのでした。



 







 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

薔薇色 小烏 つむぎ @9875hh564

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ