最終話 これからも

 匡さんの事を何とか自分の中で整理できた僕は、導さんに頼んでもう一度現世に行かせてもらった。浩のことが気になってモニターだけでは我慢できなかったのだ。

「紫音と一緒なら許可がおりますが、それでいいですか」

 一人でも良かったのだが、護衛はつけろと匡さんにも怒られた。現世に下りられるなら何でもいいと言って頷いた。

「まだ退院していないようで、ここの病院にいます。その病院の近くに下ろしてもらえるように死神に言っときますね」

「ありがとうございます」

 紫音には病院の外で待ってもらい、僕一人で浩の病室に入ることにした。病院の売店で果物の詰め合わせを買い、あくまで平静を装って扉をノックした。

「どうぞ?」

 集団部屋だったが、病室には浩しかいなかった。僕が入ると、浩は僕を覚えてくれていた。

「あ、あの時の──ええっと、守さんでしたっけ?」

「覚えてくれてありがとう。怪我の具合はどう」

「痛みはしますが、医者からはきれいに折れているから問題ないと言われました」

 浩は苦笑いしながら重そうなギプスを指した。大きな怪我はそこだけで、あとは小さいかすり傷が数カ所あるくらいで、それらはもう治りかけているようだ。

「本当に、守さん達には感謝しています。祖父や父の話を聞いて、自分のやりたいことが決まりました。退院したら、今の会社を辞めて、介護職に就こうと思います。」

「それはまた……思い切ったね」

 突拍子のない話かと思ったけど、浩の顔は穏やかだった。

「私のような未熟者でもちゃんとできるかはわかりませんが、人を助けたい気持ちは少なからずあったんです……守さん、貴方がこの間私に最後に言ってくれた言葉が決め手でした」

「僕の?」

「ええ。祖父や父は、私の幸せであれば良いと……私は自分で気づくことができなかった。でも、言われて自分のやりたいことが、わかった気がします。今度は私が、誰かを支えて、助けていきたい」

 そんな大層なことを言った覚えはないけど、浩が前向きに考えてくれるのは嬉しい。

「陰ながら応援してるね」

「ありがとうございます……おじいちゃん」

「えっ…………?」

 浩はまっすぐ僕を見つめた。急なことに僕は固まってしまった。

「なぜでしょう。なんとなく、そうなんじゃないかって思っていたんです。おじいちゃんから守さんの話は聞いていなかった。それでも貴方は祖父と親しい仲だと言った。匡さんは祖父に縁のある人だと言った。そこが決定打、ですかね」

「こんなに若い姿で呼ばれるの恥ずかしいから隠してたのに……バレちゃったか」

 顔が熱い。きっと恥ずかしさで真っ赤だ。

「本当にそうだったんだね、おじいちゃん」

「んーそうだね。今でも三獣隊でナビをしてて、命日には現世に来てたんだ。お墓参りに来るためだけに、だけどさ」

「ごめん、いつも行くのが遅いから。おじいちゃんに自分の墓を掃除させてたなんて……」

「浩は忙しいんだからいいんだよ。それにこれからはもっと忙しくなるみたいだし、そこはじいちゃんが好きでやってることだから気にしないで!」

 つい口調が戻ってしまう。ええい、もういいや。

「毎年必ず来なくてもいいから、たまにでいいからね。浩はやりたいことを見つけた。まずはそれに集中しなさい。おじいちゃん達のことは、その後でいいから」

「でもそれじゃばあちゃんや父さんや母さんが……」

「大丈夫! もうみんな転生して、誰の魂も入っていないから。そこまで深刻にならなくていいから! じいちゃんが自分で管理しとくから!」

「そうなの!?」

 大きくなった孫と話す時間は、とても楽しくて、心地よかった。

 自分の中で、引っかかっていたつかえが消えたような気もした。


 浩に別れを告げ、外で待っていた紫音にお願いして、僕は再び自分のお墓の前に座った。

「線香、持ってきたよ」

「ありがとう、紫音」

 この間忘れていた線香をあげ、再び手を合わせた。

「前は寂しい、なんて言ったけど、もう大丈夫だよ」

 誰も入っていないけど、報告したかった。僕は大丈夫。また前に進むよ。

「紫音、ありがとう──お土産買いに行こうか」

「そういえばこの前は買えなかったもんね」

「そうそう。ちゃんとみんなに買っていかないとだから、行こう」

 僕は前を向いて歩き出した。また来年、来る時まで僕は三獣隊で頑張る。

 守らなければならない魂を救えるように。

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三獣隊の子守り 朝乃倉ジュウ @mmmonbu

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