第9話 心機一転

 慌ただしかった僕の命日の翌日。

 僕は起きてすぐに匡さんに会いに行った。起きてはいたが、ベッドから出てくる様子はなかった。

「おはようございます、匡さん」

「ん……おはよう」

 匡さんは僕ではなく天井に右手をのばして、手のひらをジッと見ていた。

「驚いただろ?」

「はい。すごく」

「怖かったんじゃないか」

「それはないですね。驚いたのと、あと匡さんがああなった原因を作った自分を責めましたね」

「はあ? なんだそれ」

「僕の結界が破られなければ匡さんが煙管を投げる必要はなかった。僕が浩に駆け寄らず、冷静に結界を張っていれば、匡さんが爪を防ぐ必要はなかった……ほら、僕のせいなんですよ」

 足を引っ張ってしまった。と俯くと、脳天に拳を叩きつけられた。

「いったああ! ちょ、ぐりぐりしないでください! 痛い! 痛いです!」

「おまえ本当に馬鹿だな。あれは俺の判断ミスだよ、煙管じゃなくて別の物を投げれば良かったんだ。導さんからアンプル型ももらっていれば……防げたんだよ」

 僕の頭を押さえつける力強さとはうってかわって、匡さんの言葉は消え入りそうに小さくなった。

「頭の中が真っ白になって、気がついたら食ってんだ……それが何か、なんてわかっていないまま、ただ食って、食って、食って……紫音に薬を飲まされたのも知らない。記憶が断片的で、自分じゃ何にも覚えていないし、怖いんだよ。いつかおまえや紫音、導さんと伊万里さんも食べちまうんじゃないかって……!」

 匡さんは、自分の姿が変わった記憶が無いらしい。導さんがその都度、中級悪魔の魂を抜き取って消し去ったからだと思う。僕を引き離した方法だろう。その方法もあと何回できるのだろうか。

「もう煙管は投げないでください。僕も導さんからアンプル型をもらいますし、もう同じことは起きないように改善していきましょう」

 震える手を取り、頭から離して顔を上げた。泣きそうな匡さんに、僕は精一杯笑った。

「ほら、大丈夫ですよ。例え僕が食べられても導さんが引き剥がしてくれます。僕は元々、匡さんの中にいた魂だったんですから、どうにかなります」

「おまえ、ほんっとに馬鹿だな……」

「はい。馬鹿ですよ」

 思わずクスッと笑いあった。



 匡さんの事は驚いたけれど、きちんと薬を服用していれば予防できる話だ。導さんから吸引型とアンプル型の薬を預かり、僕も匡さんの服用チェックをするようにした。予備の煙管も僕が持っている。

 だから心配いらない。と紫音に得意げに報告したら、紫音も真似をして予備の煙管を持つようになった。

「この間のように匡さんの煙管が壊れたら、僕が予備を持っていますからね!」

「もし守の予備も壊れたら、あたしも予備を持っているから安心して!」

 二人で新しい煙管を使っている匡さんに、胸をはって報告したら、匡さんは気まずそうに頭を掻いた。

「もう壊さねぇように気をつけるって…………ありがとな」

 それでも嬉しいのか、背中を向けながら小さくこぼした言葉を、僕らは聞き逃さなかった。二人で匡さんの背中に抱きついた。

「うわあっ!?」

「素直じゃないなぁ、匡は」

「本当は嬉しいんですよね? わかってますよ、僕ら三人の仲じゃないですか」

「おまえら……はあー、敵わねぇわ」

 匡さんはやっと笑ってくれた。その笑顔に僕も紫音も、心の底から安堵した。

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