第8話 三獣隊の変容
導さんが駆けつけてくれるまで、僕と紫音は泣いていた。死神も駆けつけて、浩は無事に病院へ運ばれた。中級悪魔や上級悪魔で見えていなかったが、バイクで転倒して当たりどころが悪く、仮死状態になったらしい。命に別状なしで、左足の骨折だけで済んだと、後から死神から聞かされた。
僕たちは上級悪魔の報告と、その戦闘で匡さんが重傷を負ったと死神に報告した。死神は納得し、匡さんはすぐに導さんが連れ帰った。僕と紫音は、心配でついてきてくれた伊万里さんに泣きつき、落ち着くまで帰れなかった。
「大丈夫だよ、紫音のせいじゃないよ。守も驚いただけさ、そうだろう。導さんがまた煙管を作ってくれるさ。だから大丈夫。泣かなくていいんだよ」
伊万里さんが優しく僕らの背中をさすってくれた。そのおかげで、少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。
「ありがとうございます、伊万里さん……」
鼻をすすり、まだ涙が止まらない紫音の頭を撫でた。
「紫音、僕は紫音のせいだと思ってないよ。だから泣かないで、自分を責めないで。ちょっと驚いただけだからさ」
多分三獣隊の誰よりも、紫音は僕にあの匡さんを見せたくなかったのだと思う。ずっと僕に見えないようにしてくれて、隠してくれていたんだ。
「ありがとう、紫音。今まで僕に匡さんを見せないでくれて」
心配させまいと笑ったのだが、紫音はまた泣き出してしまった。
「はいはい、後は私に任せておくれ。とにかく二人とも、帰るよ」
伊万里さんに連れられ、僕たちも遅れて三獣隊に帰った。
年に一回の現世への帰省が、まさかこんな大変なことになるとは思っていなかった。僕は帰って早々、上級悪魔に関する報告書の提出を命じられた。
泣いてばかりいられない。すぐに作業に取りかかった。
匡さんの部屋にいる導さんに報告書を持っていくと、困った笑顔を向けられた。
「薬が効いているので、もう大丈夫です。あのアンプル型のは吸引型よりも強いので、どうしても副作用で動けなくなってしまうのですが、しばらくすれば元に戻ります」
ベッドで眠る匡さんは、普通だった。さっきの様に廃人のままだったら、と思ったら顔を見るのも怖かったけど、今は静かに眠っている。
「紫音から聞いたと思いますが……最初に話さずに隠そうとしたのは、私です」
導さんの声は震えていた。自傷事件の時みたいだと、胸が締め付けられるように感じた。
「僕は誰のせいでもないと思っています。驚いて泣いてしまったけど……匡さんは匡さんのまま、何があっても変わらない。例え匡さんが僕を食べたとしても、僕は匡さんを悪魔と呼びませんよ」
僕は強めに言った。導さんが心配していることはわかっていた。
「守君からの最初の連絡を受けた時、嫌な予感はしていたんです。まさか上級悪魔が出て、匡の煙管が壊れ、あの奇行をするとは……ああ、守君が無事で……よく無事でいてくれました」
匡さんが僕を食べなかったのは、僕が弱いからだろうか。いや、運がよかっただけかもしれない。同じ魂を持つ僕が真っ先に食べられていてもおかしくなかったのだ。
「運が良かった……ですね。僕を食べたなんて知ったら、匡さんのことだから発狂しかねないですし……」
発狂した匡さんは、多分元に戻らないだろう。そうなれば紫音が匡さんを──いや、考えるのは止めよう。僕は頭を振って今のは忘れることにした。
「守君、今日はもう休んでください。掠ったとはいえ耳の傷も深いでしょう。伊万里さんに手当てしてもらってください」
「……わかりました」
匡さんは導さんに任せ、僕は休むことにした。色々と忘れていたが、確かに耳が痛い。食堂で伊万里さんに消毒とガーゼを当ててもらった。
あの後、紫音はしばらく伊万里さんと一緒にいて、落ち着くまで時間がかかったと聞いた。
「紫音のことはちょっとそっとしといておくれ。まだ完全には落ち着いていないから」
「そうですよね……」
「あんたも、ゆっくり休むんだよ」
伊万里さんにお礼を言って、無理して笑って食堂を出た。
今日はいろいろなことがありすぎて、キャパオーバーもいいところだ。足早に部屋に逃げ込み、ベッドに飛び込んだ。
浩とはバタバタしてちゃんとしたお別れも言えなかった。後で導さんにお願いしてその後の経過を見せてもらおう。
匡さんの変わりように驚いたけど、紫音の動揺にも驚いた。あんなに自分を責めていたなんて知らなかった。誰も予測できない。仕方のないことだった。ああ、そんな軽い言葉しか出てこない。
僕の知らなかった三獣隊の変わりように、今も全てを飲みこめていない。
ただ、いまは何も考えずに目を閉じ、意識を手放した。
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