第5話 コンプレックス
守が離れて、ゆっくり薬を吸える。あいつも気をつかってくれたみたいだけど、ついでに孫も連れていってほしかった。
紀川家の墓石にもたれ掛かりながら吸っているのだが、隣にいる浩の視線が痛い。
「あ、もしかしてもたれ掛かられるの気に入らない? あー、悪かったな」
中に魂が入ってないし、当人が近くにいるから気にしてなかった。けど浩からしたら先祖というか、家族の魂が眠る墓にもたれ掛かって煙管を吸っているのは嫌な気分かもしれない。
適当な木陰で吸おうと移動しかけて、肩を力強く掴まれた。
「とんでもないです! うちの墓石に匡さんの加護があるなんて! もうこれ以上に凄いことはないでしょう! もっとくつろいでください!」
「ああー、うん……サンキュー、な」
うっすら守の血を感じた気がする。また興奮されるのも面倒だし、適当に話をして気をそらせるか。
「そういえば、浩はじいさんのことをどこまで覚えてんだ? 俺のことをなんて言ってたか、とかも気になるんだけど」
煙を曇天に吐きながら聞くと、浩は意外と落ちついた様子で口を開いた。
「実は、祖父の顔をあまりはっきりとは覚えていないんです。遺影や写真の祖父を見ても、どうもぴんとこなくて……でも、三獣隊のことを楽しそうに話してくれたことは、はっきりと覚えているんです。人の魂を食べて、消滅させてしまう悪魔を倒す、三獣隊。魂の回収をする死神を守り、魂そのものも守る、とても大切な機関だと、聞いています」
子供に話すには難しくなかっただろうか。まあ守のことだから、もっと上手くかみ砕いて話しただろうが。浩は懐かしそうに目を細めた。
「祖父の容態が悪化するにつれて、匡さん、あなたが祖父の夢に出てくると祖父は言っていました。とても強くて、無駄にイケメンで、頼れる兄のようだと。祖父から聞いています」
無駄にって何だ。無駄にって。帰ったら一発殴ってやる。
「私は、それを聞いてとても羨ましかった。一人っ子でしたし、祖父や父のように強い人間では、私はなかったから……」
「あいつ何か強いの?」
俺からしたらひ弱なイメージしかないけど。現世では強い分類になるのか?
「匡さんまでとはいかないですが、父はとある重要人物の護衛を務めましたし、祖父は機械に強くて、特に情報処理と情報収集ではその道ではトップだったみたいです」
意外だ。やけに三獣隊に戻ってきた時に成長してると思ったが、まさかナビの才能を活かしていたとは。さすが守だ。
「でも、私はしがない中小企業の会社員。祖父のように頭は良くないし、臆病だし、父のような武術や精神的な強さもない。もし私が祖父のような体験をしたとしても、私は何もできないだろうと思います。祖父のように、匡さん達と仕事をするなんて……」
浩は乾いた笑いをこぼして、次に大きなため息をついた。
「祖父が体験した三獣隊のことを知れば、少しは私も強くなれそうで、調べてみたものの。祖父のような臨死体験をした人の話はどれも、先ほどのように悪魔から守ってもらったことばかりで。祖父のように三獣隊として働いた人はいなかった」
「それは正解だな。おまえみたいに仮死状態の魂はよくいるから、体を探して戻してやるのはしょっちゅうだが、じいさんみたいに一緒に働いたのは他にいない」
煙管の灰を落としつつ、俺は続けた。
「それに、三獣隊のことを調べて知ったとしても、何も変わんねえよ。おまえはおまえのまま、じいさんや親父さんのようにはなれねえままだ」
「ははっ……ですよね」
「でもな」
皮肉っぽく笑う浩に、俺はしゃがみこんで目を見つめた。おどおどして自信のない目には、守の血を感じない。
「おまえにしかできないことは必ずある。じいさんがそうだったように、親父さんがそうだったように、おまえにしかできない何かがあるんだよ。だから、親の凄さに怖じ気付くことはねえんだ。わかったか」
少なからず守が普通じゃない体験をしたことに、平凡すぎる自分にコンプレックスを持っているようだった。それは守と、守の血が濃かっただろう子供が規格外なだけで、浩は今の現世では人並みだろう。なにも後ろ向きになることはないはずなのだ。
「こんな歳になっても、それは見つかるものですかね」
「歳は関係ないだろうよ」
煙管を吸うために立ち上がると、浩はそのまま俯いてしまった。
「なぜ、私の祖父だったんですかね」
ぽつりと呟かれた言葉は、聞こえないフリをした。
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