第4話 ヒーロー
僕が浩に三獣隊の話をしたのは、死期が近づいて匡さんが夢に出てくるようになった頃だ。まだ浩は小さくて、たしか四歳や五歳の頃だったはず。
いくら慕っていた祖父の話だからって、覚えているはずはないだろう。そう思っていた。
「なんで……?」
思わず声が震えた。浩は興奮気味に僕に詰め寄った。
「やっぱり! そうなんですね! 祖父が私に話してくれたんです、私がうんと小さい頃に。作り話だと思っていましたが、本当だったんですね! 祖父の話の通り、匡さんはカッコよくて強いんですね!」
覚えていてくれた。
それだけで僕は泣きそうだった。あんな老いぼれの話を、大人になっても覚えていてくれて、嬉しくて、僕は思わずスマホを落とした。
「守! なにしてんだ!」
「しまった!」
匡さんの怒声に慌ててスマホを拾った。でも、視界が涙で滲む。
浩が心配そうにハンカチをくれたが、僕は袖で拭った。ふんばれ、僕。ここで孫の魂を食われるわけにはいかない。
すぐに遠隔攻撃を展開し、低級悪魔に雷を落として一掃した。
「紫音はまだか!?」
二体の中級悪魔を相手にしている匡さんに言われて、おかしいと感じた。紫音の足の速さならもう合流していてもいい頃のはず。だけど姿が見えない。それどころかナビの画面からも消えている。
「なにかあった……と考えるべきか」
とにかく今は目の前の中級悪魔をどうにかするのが最優先だ。
「匡さん! 隔離するんで、各個撃破をお願いします!」
ただナビ作業だけをしているわけじゃない。導さんと作った対悪魔用の結界で、中級悪魔の動きを止める。これで匡さんは一体ずつ相手にできる。
各個撃破なら、匡さんは負けないだろう。
「サシなら余裕だな」
黒い刃が中級悪魔の身体を貫くのは一瞬だった。匡さんの攻撃する早さは紫音には劣るが、中級悪魔には負けるわけがない。
反撃の隙を与える間もなく一体を消滅させ、もう一体もすぐに片づけることができた。
「これでとりあえず大丈夫だよな」
周辺の安全を確認して、僕は頷いた。近くにいる悪魔は片づけたはずだ。しばらくは悪魔もすぐに寄ってこないだろう。
「じゃあ浩の体を探しに行こうぜ」
匡さんに賛成だが、その前に僕は浩の興奮を静めるのに手を焼いた。どうやら浩は、三獣隊のことを大学の卒論のテーマにするほど気にしてくれていたようだ。熱弁してくれるのはいいが、今は早く魂を体に戻してやりたい。
「す、すごい! これが三獣隊の仕事の一部なんですね! 祖父が話していた通り、迫力ある素晴らしい戦いでした! あなたは祖父の話になかったことをしていましたが、祖父がいた頃とはシステム? 体制が変わったんですか? ああ、そうだ。匡さんの双剣の素材は何でできているんですか!? やはりあの世にしかない素材とか!? それともそれも導さんという方の一部とかですか!?」
とりあえず、鼻息荒く、目をギラギラさせて興奮している浩の目の前で、ねこだましよろしく、手を勢いよく合わせて大きな音を出してみた。
すると豆鉄砲をくらったかのように浩の目が点になった。どうやら成功したようだ。
「おまえさ、どこまで三獣隊のこと話したんだよ」
双剣をしまって煙管に火を点けながら近づいてきた匡さんに、僕は苦笑いするしかなかった。
「ははは……どこまでって、戦隊ヒーローの紹介みたいに匡さんと導さんのことを話しただけですよ。詳細は話してませんし、僕のナビのことも伏せてます」
「じゃあ、現世で何かしらの文献みたいなのが残ってたんだろうな……微妙に詳しいしな」
大学の卒論にするくらいだ。僕みたいに仮死状態になった人の体験談とか、現世にそれっぽいのが残っている可能性はある。実際に浩みたいに仮死状態の魂を何回か体に戻すことはしているし。
「悪い、ちょっと吸わせて」
「あ、いいですよ。僕は導さんに連絡してきますね」
戦闘の後だから匡さんは薬を吸わないといけない。顔色はいいように見えるけど、中級悪魔を二体相手にしたことだし、少し休憩してもらおう。
僕は匡さんと浩から離れて導さんに連絡をいれることにした。
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