第3話 遭遇

 匡さんと一緒に現世にきて、まず僕は花屋に行った。

「すみません、そことあっちの花で花束をお願いします」

 仮の肉体で、生きている人と会話はできるが、すぐに僕らの記憶はその人から消える。この花屋のスタッフさんも、僕らが店から出たら顔から忘れるだろう。

「はい、お待たせしました!」

「ありがとうございます」

 いくら家族と会っても、すぐに忘れられる。最初はショックだった。けど、少し慣れてきた。

 店の外で待っていた匡さんと合流して、次の目的地へ向かう。

「おまえも変わってるよな」

 匡さんは僕の少し後を歩きながらつぶやいた。

「普通、自分の墓に花をおくか?」

「入っているのは僕だけじゃないですから……奥さんも子供もいますし、ね」

 高台に位置する目的地、僕の骨壷が眠る墓地に、着いた。

 いつも命日に現世に来たとき、僕は此処に来る。そして奥さんと子供らに花を供えるのだ。

「おまえの家族ってもう転生したのに意味あるのかね」

「いいんですよ。僕がしたいことなんで」

 墓石を綺麗にしつつ、僕は笑った。匡さんはなんだかんだ言って手伝ってくれるから。僕が花束を持っているから、匡さんは桶と柄杓を持ってきてくれたのだ。

「紀川家も、もう孫のひろしが来なかったら、誰も此処には来ないですし……僕はともかく、奥さん達を雑草まみれにしたくないですからね」

「一年でこんなに生えるのも面倒くさいな」

 匡さんは周辺の雑草を抜きながらゴミも拾ってくれた。

「空き缶とかちゃんとゴミ箱に入れろってのな」

「まあ、祟られても文句言えませんよね。此処に捨てるってことは」

「真顔で言うなよ、怖いだろ」

 匡さんも真顔だけど、黙っておこう。

「あ、線香忘れたから持ってくるわ」

 気をつかってくれたのかな。匡さんがいない間に、花を供えつつ、僕は奥さんと子供に話しかけた。最近のことや匡さん達には言えないことを話す。いつものことだった。

「浩はもう今年で三十七になるっけ? 此処に来れないほど忙しいのかな。でも、それはそれでいいよね。あまり此処に縛られるよりも、精一杯生きてほしいし……」

 でも、少し寂しいね。なんて、我が侭を言ってみたり。まあ僕が毎年此処に来てお墓は綺麗にしているから、別にいいんだけど。それに僕以外の、此処に入っている家族は全員すでに転生している。

 僕の子供も、事故で早くこっちにきてしまったけど、導さんと死神のおかげで早めに転生させてもらえた。この墓にはもう魂は入っていない。でもこういうのは気持ちの問題かな。なんて自分に笑う。

「あの──」

 不意に話しかけられて肩がはねた。人の気配がしなかったので油断していた。

「あっ、すみません。驚かせてしまって」

 声の主を見て、僕は声が出なかった。

「この墓地で人を見るのは珍しくて、つい声をかけてしまって。それに、そこのお墓はうちのお墓なので」

 申し訳なさそうに笑う、おじさん。いや、僕の孫の浩だ。

「毎年私が来るときにはいつも綺麗になっているのですが、もしかしてあなたが? 失礼ですが……どちら様ですか?」

 上手く言葉が出ない。毎年? いつも? 浩はちゃんと来ていたのか。頭の中でゴチャゴチャしていた時、僕はあることに気づいた。

「えっと、その前に一つ聞いていいかな?」

 何者か名乗らない僕を怪しんだ目で見るのは仕方ないとして、確認しておかねばならないと心を鬼にして言葉にした。

「もしかして、此処にくる途中で事故に遭った?」

「はい?」

「左足の太股から、その……えっと、言い辛いんだけど、生気が漏れてるから」

 稀に見る光景だ。仮死状態になったばかりの魂に見られる。けれど本人は気づいていないのか。

「せいき? 何を言っているんですか? とにかく、そこはうちのお墓です。勘違いして毎年綺麗にしてくれていたのなら、すみませんが間違いですよ。うちは此処にくるのは私ぐらいですからね」

 あー。だめだ。話を信じてくれないどころか自覚してくれない。さすが僕の孫。

 でもここまで生気がダダ漏れでは、悪魔が寄ってきてしまう。

「おーい守ー。線香持ってきたぞー」

 タイミング良く匡さんが戻ってきてくれた。

「おいおい、なんで仮死状態の奴がいるんだよ。守、おまえの知り合いか?」

「知り合いどころか、僕の孫ですよ」

 匡さんを不振そうに見ている浩に聞かれないよう小声で伝えると、匡さんは線香を落として固まった。

「あ……あのガキだった浩が、こんなおっさんになっちまったのか!?」

「僕だって最期は枯れ木みたいだったじゃないですか。人は劇的に変わることもあるんですよ」

 以外と妻も子供も小さい頃とあまり変わらない姿だったせいか、匡さんは驚いたようだ。確かに僕も浩の腹の出具合には驚いたけど。

「あなたはこの人のお連れさんですか? お墓を間違えているみたいですけど、あなた達はどこの家の人ですか」

 どう説明したものかと僕が悩んでいると、匡さんが前に出た。

「俺は狩崎。あんたのじいさんに世話になった者だ。こっちは守って言って、あんたのじいさんと深い縁のある奴だ」

「かりざきさんと、かみ、さんですか。ずいぶんと若く見えますが、祖父を知っているんですか?」

 僕のことを上手く誤魔化してくれた匡さんに感謝した。さすがにこんな若い姿で孫におじいちゃん、と呼ばれるのは恥ずかしい。

 とはいえ簡単には不信感を拭えないだろう。これはどうしたものか。

「俺らは若く見えるだろうけど、実はあんたより歳いってんだぜ──それよりも、あんたの体はどこだ?」

 匡さんは携帯用に折り畳んでいた双剣を構えた。気づけば低級悪魔が寄ってきている。僕はすぐに導さんに連絡をとった。

「なっ、なんですかそれ!? 銃刀法違反では……!」

 匡さんの双剣に驚いた浩に説明している場合ではない。すぐそばに中級悪魔が現れたのだ。こんな短時間で寄ってくるのも珍しい。この場所がいけないのだろうか。

「話は後だ! 守、紫音を呼べ!」

「導さんに連絡をいれたので、すぐに来るかと! 浩! 僕から離れないで!」

 簡易型だが結界を張り、僕は浩と一緒に入った。紫音が来るまで匡さんに結界を防衛してもらう。何も言わずとも、僕と匡さんは役割をわかっているから、すぐに動ける。

 それを、浩は訳がわからないと口をぱくぱくさせていた。

「浩、君はいま仮死状態なんだ。だから悪魔に魂を狙われている。けど大丈夫だよ、僕と匡さんがちゃんと守ってあげるから」

 思わず生前のように接してしまったが、今の僕じゃ外見が逆転している。気づいた時には遅く、僕は浩の薄くなりかけてる頭を撫でていた。

「さっきの……匡さんって言いましたか? それに、悪魔って」

「あ、ああ、うん。信じられないかもしれないけど──」

 浩は僕のことよりも悪魔と戦う匡さんに目が釘付けだった。そろりと、本人に気づかれない間に手を引っ込めた。

「仲間が来るまでは下手に動けないから、ちょっと待っててね」

 現世用のスマホで三獣隊のナビにアクセスして、簡易型のナビを展開。そして現在地の周辺状態を掌握する。紫音はすぐ近くまで来ているけど、中級悪魔の方が僅差で早く来るだろう。

「匡さん! 三時の方角からもう一体、中級悪魔! 七時の方角から紫音が来てますが、おそらく悪魔の方が速いです!」

「了解! おまえらそこから一歩も出るなよ!」

 結界と一定の距離を保ちつつ戦う匡さんのサポートをしていると、浩が僕の後でぽつりと言葉をこぼした。

「あなたたちは、三獣隊ですか?」

 僕の手は完全に止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る