第五話 官品女
フルシチョフカそっくりの兵舎に案内された楠音たちは、汚れたまま現地の武装神官とファースト・コンタクトを行う運びとなった。
「貴様ァ! 雑兵ごときが呼び捨てなど何事か!」
調度品みたいなノリで置かれたデグチャレフ・ライトマシンガンを素通りしたあたりで六尺ぐらいの、胸上あたりまで伸ばしたセミロングを金に染めた女がドタバタと跫音を響かせ現れたのが発端。朗らかに
「そもそも錦の御旗に仕える我ら皇軍が、身なりもマトモに正せない体たらくなど言語道断! いつ何時も、現人神であられる陛下に恥じぬ臣民であることを態度で示せないで何が武装神官だ非国民ども!」
「よりによって皇道派かよ……」楠音がぼやく。
「ここの分隊長は俺だ。いくら階級が俺らより上だからって、一ノ宮に籍を入れたなら俺の指揮に従ってもらう」
従七位、上等兵の身の丈で下士官に理路整然と反論しているのが
「
「上にいるけど寝てるぞ」
「寝てるだと⁉︎ 戯言も大概にしろ! 誉れ高き警務科が勤務時間中にそ」
「うるっさいなーさっきからさあ〜」
気だるげな音吐が階段から聞こえる。ひどく散漫な足取りの彼と遭逢した咲耶は呆然とした。今の今まで、草薙剣城という男の経歴からして典型的な益荒男を想像していたのだが、どう頑張っても三年生のウズメや彦人の身丈よりも二回りは小ぶりに見えた。顔立ちも体つきもおしなべて線が細く、どこか浮世離れした美少年といった形容が正しいか。双眸でレッドとアンバーに色が分たれているのも、彼の神秘性を増長していた。
「で、どーゆー状況なのか説明してほしんだけど」
寝癖であちこちに跳ねた明るめのブラウンを手櫛で整える。大きなあくびを一つ噛み締め、必死に弁明する咲耶に応対しているその背中からは辣腕の神祇官といった感は得られない。
「あーなるほど、うん。えっとね少年。もしかして公立初めて?」
「はい。昨年に空挺団の任期を満了しましたので、更新せず元の連隊に合流しました」
「ん〜、ならしょーがないか。まずね、それこそ小隊規模の私立校じゃないと階級ってあんま意味ないんだ」
文化的衝撃に真正面から殴られ情緒の均衡を失う寸前の咲耶を尻目に、追い討ちをかけるように剣城は続ける。
「別にワイ君、将校の教育とか全く受けてないから陣頭指揮なんてもってのほかだし、地元の人間じゃないから土地勘もない。気がついたら勝手に昇進されられまくっただけで、中身はそこらへんの
「…………り得ない………………かのような愚行、到底許されるはずが……」
「貴女の意識が高すぎるだけで、現場なんてどこもこんなもんですよ」
「貴様ら売国奴のせいで帝国は瓦解したんだぞ!」
とだけ吐き捨て楠音を爪弾きにした後、そのまま部屋から去ってしまった。
「官品女め」
集団生活一日目。ああ、早く辞表を出したい。
◇ ◇ ◇
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ウブレ・ブランカ 雨水雪 @usuyukiwater
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