第1話 キラキラ
今日という日を私は忘れないだろう。
だんだん空気に混じる白い粒子が線になり、通路の奥へと何本も続くようになっていた。手をかざすと避け、しかし繋がりは途絶えない。
これは一体何なのだろうと、君は訝しむ。
導かれるように辿っていく君は、白い線が左右上下に広がり通路が開けた場所に繋がっていることを発見する。
そして踏み入った。
君は目を見開き天井を仰ぎ見た。
白い粒子が凝縮したクリスタルの輝きを中心にした螺旋のイルミネーションは、深海に降り注ぐマリンスノウのような静けさと神秘性を秘めていた。
闇に閉じられている筈の天蓋は、満天の星空のような星々が君を祝福するように瞬いていた。
その輝きは君の体を流れる輝きと同じものだと、君は自然と理解した。
恐怖に駆られていた君の心は安らぎを覚え、異星の精霊への信仰心が芽生え始めた。
きみはとてもゆかいな存在だ。
おもむろに剣で天を突くように構え、いわゆる魔素、マナ、魂魄と呼ばれるものを大気から取り込み、剣に彫られた渦に這わせて勝手に弄ばれた未熟な魔力回路を走らせる。
溝を埋めるように白い輝きが剣をなぞり、腕をつたい、心の臓へと渦巻いていく。
過剰な光を纏って、風もないのに髪は立ち上がりうねる。瞳は極彩色の光を放ち、日本人特有の黒い瞳ではなくなっていた。
白い輝きはうずまき続ける。
この儀式は私だけ知覚して進められていく。
当事者であるきみでさえ、次に目覚める瞬間まで何が起こったか分かりえないはずだ。
これは術式だ。
記憶にまつわる術式。
きみは以前どこかの星で存在した異種族の記憶に基づいて行動している。
絶滅した彼らの意識の集積が粒子となって堆積したのがこのクリスタルで、自分たちのように滅びを迎えて欲しくない、そんな願いの結晶がきみがきみを作りかえる術式を作りあげた。
しかしそれをきみが知ることはないし、教える理由もない……とはいえだ。
使う言語体系によって人の時間の捉え方は変わるという。では人間の構造が、知覚する世界が変わった時、果たして世界の捉え方はどれだけ変わってしまうのだろう。
信仰というかたちで受肉する私はこの世界にとって異物でしかない。だがひとたびでも信仰されれば意思が芽生え、信仰心という太陽光を浴びることで成長していく。
はじめまして。愚かな人間種族。
そして、君に贈る言葉。
はーぴぃばーすでぃ。
うんうん。
未知の記号の羅列は言い慣れないものだね。
まだ会うことはできないけれど、きみの成長によっては言葉を交わすことが出来る可能性がある。そんな日を……私は楽しみにしているよ?
ダンジョンに呑まれました。きらきらしませんか? @YodomiADI
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