ダンジョンに呑まれました。きらきらしませんか?
@YodomiADI
プロローグ
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もう何が何だか分かってはいなかった。
地面がひび割れ、足を滑らせ、宙ぶらりん。リュックが引っかかり助かったと思えば、じわじわとその広がりは止むことなく、闇の中に滑落する。時間が絶望を与えてきた。
ただ声だけが、自分の不幸さに悲しむ暇もなく、起きる理不尽さに怒る隙間もなく、ただ声だけが耳に聞こえてくる。自分が出している声だとも思えずに。
もう全てがダメだった、光が、空の青さが遠のいて、声を絞り出す。あぁ俺は、呑まれた。
それが意識を失う前の話。
そしてこれからが意識を取り戻した後の話 。
手が地面を撫でていた。気がつくと壁に背をつけて倒れていたようだ。周りは洞窟、だけど暗がりはなくくっきりと見える。
目の前には不似合いな大きな宝箱。
他に目につくものは何も無く、落ちてきたと思う天井は固く閉ざされている。
宝箱を開けるのは怖かった。
そのまま膝を抱えてしゃがみこんで数時間経ったと思う。ただ、気持ちが落ち着いてきたことは確かで、なにかしなくちゃって思ったのは本当のことで。
宝箱を開けた。
剣が入っていた。
抜き身の剣には渦のようなふしぎの模様が柄まで通っていた。
渇いた唾を飲み込む。
ずっしりと、手に持つとその重さが手に馴染んだようだった。これが自分のいのちと同価値の重さなのだろうか。
すると、ガラガラと壁が崩れて、向こう側に道ができる。
進むべきか進まないべきか。
減らないお腹に疑問を抱かないまま、洞窟の中を歩き始めた。
ダンジョン災害。
それは1999年の7月のことだった。恐怖の大王が君臨するというノストラダムスの大予言が世間を賑わせた。だが当時ブームになったのは日本だけ。人々はどんな災害が人類を滅亡させるのかについて、子供が穏やかに絶望を想像していた。
そんな災害は起こらない。いや、起こる。起こるんだ。
冗談だと笑い本気で信じる人間様々だった。今では懐かしいブラウン管テレビで特番放送、滅びの時を今か今かと、ノイズ混じりの映像がお茶の間を賑わせたのだ。
そしてソレは起こった。
東京スクランブル交差点、その中央からコンクリートが割れ、地獄の窯が開くようにヤツラは這い出してきた。身の毛のよだつ怪物、今の時代で良く知られているゴブリンやオークという見た目ではなかった。ポケットモンスターのように親しみのある外見ではなかった。エヴァンゲリオンに出てくる使徒のような見た目をした何かだった。
たくさんの行方不明者が出た。
たくさんの未確認生物の死体が積み重なった。
たくさんの血が流れ、そして固まった。
政府はこの未確認生命体1号から3号について、総称モンスターとして発表した。魔石と魔石と呼ばれる高密度の魔力を内包したいわゆる心臓を持ち、砕くと人を突き飛ばすほどの液体があふれる。その液体は魔石を砕いた人間を覆い、その人間は人の枠を踏み外す。
いわゆる強化人間になるのだ。
政府の対応は非常にわかりやすいものだった。この開いた穴をダンジョンと呼び、だれでも自由に入れることを発表した。
もちろん荒れた。国が責任をもって調査するべきではないのかと。しかし、政府は沈黙、それどころか一般開放の日時を発表し始めた。そしてこれをチャンスだと、一攫千金を狙った者たちが立ち上がった。
当時ゲームでドラクエが、FFが親しまれ社会現象になっていたため、モンスターを狩る仕事をする自分たちを勇者、光の戦士と自称する人間が現れた。モンスターの素材を売り買いするギルドを立ち上げる人間、その素材を使って武器、防具を作る人間なんかも現れた。ダンジョンがもたらした混乱は、恵みとなり東京の市場を、日本の経済を変えてしまいそうな勢いだった。
一方でそれは、東京だけの話だったのだ。
東京から離れた地方ではダンジョンはテレビの中の話。仮面ライダーや特撮ヒーローと何ら変わらない物語の中の架空の存在。ガラゲーもまだ出たばかりで情報の伝達は遅かった。
だからこそ知っておくべきだった。
だからこそ備えておくべきだったのだ。
だからこそ対策を立てておくべきだった。
その日、ダンジョンは日本各地に現れた。
そしてこの物語が始まるのでした。
洞窟内、光源はないが薄ら明るく見える。だんだんこの洞窟に適応し始めたのだろうか。地面の凹凸も見え、躓いてしまうこともない。一方で霞みがかったような白い粒子が空気を漂っている。この霧のようなものは何だろう?
呼吸していると少し咳き込んでしまう。身体が異物だと感じているのだろうか。知らずに毒を吸ってないか、そんな不安に駆られる。願をかけておこうか。手に神と書いて飲み込むと不安が収まるとか聞いたことがある。
掌を見る。私は目を疑った。
掌の薄い表皮の中を白い粒子が動いている?
気持ち悪い。
腕をまくれば血管を光る粒子がなぞっていた。服の下は胸の真ん中が、心臓の位置に白い粒子が集まってほのかに光っているような気がする。
私の体はどうしたのだろう。
怖い。
目の前が真っ暗になるような不安が、じわじわと頭に上ってくる血液がゆっくりになる気がして、動悸が激しくなってくる。呼吸は浅く早くなり、汗がぶわっと噴き出してくる。
そうしてどれくらいたっただろうか。
呼吸が落ちつき、少しずつ頭が回ってくるようになってきた。
とりあえず前に進んで、先に進んで、何かを見つけよう。
根拠のない前向きさが今は心を守っていた。
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