リセット


「東京の大学に通っているけれど学費に困って休学しているのだと言っていました。その割に家は裕福らしくて外車が何台もあるとか」



 東京でバンドを組んでいるから今度ライブに招待するだとか、メンズ雑誌でモデルのバイトをしているだとか。また次の日になれば高校生の頃からホストのバイトをしているのだとか。てゆーか特待生は学費免除っていう設定なかったっけ?だから仕方ないからそこにした的な。



「こちらからは質問もしていないのに話してくるんです」



 由美子さんは「そうですか」「すごいですね」と適当に返事をしていたが、早瀬千聖はあまりにもしつこかった。何とか取り入りたくて必死なようだ。そんな嘘を吐いて気に入ってもらったところで何の意味があるんだろう?僕には多分、一生わからない。




*****   *****   *****   ***




「買い物が無い時は、いつも近道して土手を歩いて帰るんです」

「えっ、あの橋の下をですか?」



 小谷さんが驚いた声をあげる。由美子さんは恥ずかしそうに一瞬だけ下を向いたけれど、「何か問題でも?」とでも問い詰めたそうな開き直りを見せた。



「そうです、あそこ通ると近いんですよ」

「ははあ」



 どんな道なんだろうか、小谷さんのリアクションから察するになかなか険しい道なのではないか。まあ明日になればわかるから今は深追いしないでおこう。


 その土手の途中に早瀬千聖がいた。


 以下はマユルくんから聞いた話になる。それは前回、明日訪れた未来で由美子さんが待ち伏せされた時のことだ。



 わざとらしく煙草を消して話しかけてきたのを由美子さんは無視した。いつもは仕事中だから話しかけられれば対応していたが、今はそうではない。


 そもそも早瀬千聖が売店で何か買ったことがあっただろうか。そんなことを考えてふと、数百円単位でレジ金と在庫が合わない日があったことを思い出す。今までそんなことは滅多になかったのに確か今年度になってから何度かあった。ずっと長い間、せいぜい十円前後の誤差で済まされてきたのに。


 大柄な男は執拗に追いかけながら話しかけてくる。由美子さんは無視を貫くが、そのうち早瀬千聖は由美子さんを追い抜いた。そして彼女に向かって「あの牛乳屋とは別れた方がいい」などと言い出した。「あんなレベルの低い大学しか出ていないような、つまらない男」と。


 それを聞いて由美子さんは足を止めた。ついに爆発してしまった彼女は早瀬千聖の悪行を指摘したのだ。そこは増水した川に平行する土手だった。その場所に側溝が作られたのは十年以上も後に再開発された時になる。



「ホームセンターで万引きしているをの見た。島野くんはそんなつまらないことはしないし、嘘だってつかない」

「あなたと違って本当に大学に通っていたし卒業している。学生だっていうのも嘘ですよね?」



 由美子さんの弟さんは早瀬千聖の在籍するという大学の同じキャンパスに通っていた。弟さんに確認したが、法学部は彼の通う水道橋キャンパスではなかったし、特待生という制度についても聞いたことが無いとのことだった。何名いるのか、存在するかどうかもわからない特待生の為に水道橋キャンパスが開かれて、あの人気学部の教授がわざわざ出向くだなんて話も勿論。


 そこら辺の設定は真理子さんに話していたことと共通するようではある。きっと嘘を繰り返すうちに早瀬千聖の脳内では確固たるブレない真実となっていたのだろう。事実になる日は未来永劫訪れることはなさそうだが。



「自分の方こそそんなつまらない嘘ばかり考えていないで、本当に大学受験でもすればいいのではないか」




 由美子さんの言うことはもっともだと思う。だが、



 あとは皆さんご存じの通りである。逆上した早瀬千聖によって彼女は―――――――




「ありがとうございます。一人でも多く知っていてくれる人がいるというだけで、とても心強いです」




 それは心細かったということだ。何よりも“しつこくされる”というのは大変なストレスだと思われる。僕には経験が無いけれど想像くらいはできる。




「―――もう大丈夫ですよ。由美子さんには島野さんがいますし、小谷さんも頼もしいですから。僕だって」



 旅館の宿泊を追加したって心配ない。物価めっちゃ安い。“月に30万はこの時代に一人で生きるには悪くない”と思うことにした。



「微力ですが何か役に立てれば」



 それで由美子さんが助かるのなら安い。…こうやって何でも損得に変換するのってどうなんだろうね。さもしい考え方なら改めなければならないな。貧乏なのは仕方ないけど貧乏くさいのは嫌いなんだ。


 立ち話している間にも何人かは売店へ入っていく。由美子さんはその度に店内に戻って接客をして、またお店の外へ出てきた。



「お仕事中にすみませんでした、お忙しいのに」

「いいえ、ありがとうございました。豆乳もごちそうさまでした。明日はよろしくお願いします」

「こちらこそです」

「夏海さん、私もごちそうさまでした」



 小谷さんも言って、三人でペコペコし合った。明日も無事に、こんな風に解散できれば素晴らしい。


 さあ、今日は真理子さんの護衛二日目になる。今日のところは小谷さんが由美子さんを車で送ってくれることになっている。あとは明日をやり過ごせれば何とかできるはずだった。





*****   *****   *****   ***




 9月27日 17:25



 正面玄関で真理子さんを待っていた。17:15に終業のチャイムが聞こえるや開け放たれた狭いガラスのドアに人波が押し寄せる。渋滞こそしないものの、それは五分以上は続いた。ピークが去って通行人がまばらになった頃に彼女は現れた。



「お待たせ、夏海くん――――――あれ?」

「由樹さんなら、まだ実家に」



 真理子さんが睫毛を羽搏かせ首を小さく傾げたから、僕は用意していた嘘の言い訳を口に出した。




「―――え?・・あ、うん」



 さっきとは反対の方向に首を傾げて、彼女は視線を宙で泳がせている。



「ごめんね夏海くん」



 真理子さんは戸惑ったような様子で言った。



「 よ し き さ ん ・ ・ ・ っ て 、 誰 だ っ け ? 」




 










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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax










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