第5話 Lie or truth?
バスと徒歩で第8支部までノワールさんと共に帰って来ると、扉の前で雑談しながらそれぞれのガンバッグを抱える3人のアイギスの姿があった。3人は私達の姿に気付くと、三者三様の反応で出迎えてくれる。
「――あっ、おかえりなさい来実ちゃん!!それと今日からの勉強の事、よろしくお願いしますね」
『アイギス制服は日常に溶け込める服装なら何でもいい』と決められたルールに従い何故かメイド服に身を包み、アイギス随一の応急処置技術を持つ青髪といつも笑顔な事が特徴のサブマシンガン使いの少女――『
「……待ってたよ、リーダー」
抱えていたガンバッグを無言で壁に立てかけ、冷ややかに見つめながら棒状のお菓子を頬張る茶髪ショートの無口な狙撃手の少女――『
「遅いのだぁ〜!待ちくたびれたのだぁ〜!」
一応年齢はそれ程変わらない位な筈だが、子供っぽい印象と屈折ない笑顔で迎えてくれ養成学校時代では前衛で囮役や突撃役も務めてくれたワンコの様な銀髪の女の子――『
「お待たせしてすみません皆さん。とりあえず……どうしてこんな依頼を出してきたのかなど、色々聞きたいので一先ず中へどうぞ」
三人を応接用のソファーに座らせ、対面する形で私とノワールさんが座ると代表して私が口を開く。
「さて……まずはノワールさんもいるので自己紹介から始めましょうか。
この3人組は支部に所属してないアイギス、フリーアイギスの方達、左から綾香、纏結、美月さんです。
そして3人組に、こちらは私が契約した影の
「…これが……男??とてもそうは見えないけど……うん、すごくかわいい。ともかく、これからよろしく……ノワール」
やっぱりかわいくてもちゃんと男の子なのかやや照れながら3人と握手を交わすノワールさんを見届けると、仕事モードの冷ややかな目で私を見つめる纏結に「……それじゃあ」と切り出される。
「……ここからは仕事の、アイギスとしての大事な話。
まず私たち3人は、アテナの配属命令で来た。支部を名乗るなら…人を配属しろって事で。
だから…リーダーの監視とかじゃない。それより私が聞きたいのは……どうして人g―「纏結!!それに美月と綾香さんも、お腹空いてませんか?なにか振る舞いますよ。カップ系ですけど」………リーダー…話を逸らさないで。
養成学校で退学寸前だった私達にも手を差し伸べて、第1支部に所属してからは1ヶ月で500件という怒涛の勢いで依頼をこなす姿から、尊敬と畏怖を込めて与えられた異名は″
そんな誰にでも優しくて、生真面目だったリーダーがどうして!……っ、どうして大量殺人なんてしたの!!」
「真琴さんが………大量……殺人…?」
軽い目眩と血の気が引いていく感覚が私を襲う中、ノワールさんが息を飲み信じられない物を見る目で見つめる。
当然だ。普通は殺人――特にアイギスが何の罪も無い一般人を傷付けよう物なら運が良くて一生檻の中、悪かったら即死刑だ。
それなのに――私と言う人殺し。私と言う良くも悪くも名の知れたアイギスは今ものうのうと外を歩き、依頼をを受注し、銃を持っている。
当然一般の市民は恐れるし、一人ぼっちだった事をいい事に誹謗中傷の手紙や無賃依頼はよくあったし、周りのアイギスからも仕事を押し付けられ報酬は取られたり、事故を装って殺され掛けたりとやりたい放題。だからこそ――
「……そうですよノワールさん。それと纏結達にもお教えしましょう。
何故私が大量殺人を犯したか?そんなの単純明快――1人で出来そうな事をわざわざ依頼してくるだらけきった面倒極まりない方々に、分からせてあげたんですよ。
アイギスは本来怖い存在なんだ。擬似娘、アンソフに関する犯罪がメインなんだ。
本気になれば……スーパーマーケットを5分以内に外部から隔絶して、中の民間人を1人残らず殺す事も…たった一人のアイギスで出来るんだぞって……。
………もうちょっと隠し通せると思ったんですけどねぇ…それで、ノワールさんは本性を表した殺人鬼とまだ契約してて良いんですか?私がいつノワールさんを殺すか…分かりませんよ?」
「……ボクは…ボクはっ、契約を切りません!!ボクを助けてくれたのは、人並みの寿命を与えてくれたのは真琴さんです。それに――ボクにとって影は、その人の心を映す鏡みたいな物です。
だから……例え今は無理でも…いつか、嘘の無い真琴さんの本当の言葉を、聞かせて下さい」
私の影を見てどこまで見抜かれたのか、焦燥感と不安が募る中ノワールさんは纏結達と私に軽く会釈をすると2階に上がって行ってしまう。
「……なんか、悪い事してごめんリーダー。けど……」
「…………分かってます。いつかはバレる事、絶対に隠し通せない事くらい分かってました。それで…結局あの依頼は何だったんです?」
「あぁ、あれ?あれは…」
「いつも頑張ってる来実ちゃん(リーダー)への投げ銭的な適当な依頼です(なのだ!!)」
美月と綾香が声を揃えて教えてくれるも、そのぶっ飛んだ理由に引き攣った笑みを浮かべざるを得ない。……私が上に報告しないから良いものの、これ本当はバレたら始末書案件ですからね?
「……はぁ…気持ちは嬉しいですけど、ルール的にアウトですから二度とやらないで下さいね。というか纏結は止めなかっ――いや、その顔は止めても無駄だったんですね」
申し訳無さそうに顔を伏せる纏結の頭を撫でて慰めると引き出しから″支部加入申請書″を3人分取り出して手渡す。
「……一先ずそれを書いててください。私は…ノワールさんの様子を見てきますから」
呼吸を整え、後ろから感じる生暖かい視線から逃げるように私は階段を上り2階へと向かうのだった。
◇◆◇◆
ベットに寝転がり、目を閉じて考える。内容は勿論、真琴さんが…人殺しだという事実。それも1人や2人じゃなくて、大量と評されるくらい。もしかしたら……100人?いや…もっと真琴さんは手に掛けてるかもしれない。
けど……真琴さんはどこかで
「う〜ん……あのツンツン髪の人の話じゃ真琴さんがそんな事する人だと思えないし、何より…真琴さんの銃と、夢で見た銃……似てた様な…」
影を広げること無くベッドに寝転がって思考の海を泳いでも纏まる事はなく、諦めて起き上がると丁度軽いノックの音が響く。
「…どうぞ〜?」
「失礼します……その、ノワールさん。少し…話をしませんか?」
不安、心配、憂慮といった感情が見える影を床に写しながら入ってきた真琴さんはおずおずとベットの端に座ると、何度か視線を彷徨わせた後に恐る恐るといった様子で口を開く。
「……えっと、まず…重要な事を話さずに契約してしまって、すみませんでした。私が大量殺人を犯したのは、纏結の言う通り事実ですし……ノワールさんの気が変わって契約を切りたくなったらいつでも言ってくれて構いません。
もちろん…ノワールさんに害を成す事なんてしませんので、安心して生活して下さいね。それでは…私は下に降りておきますから。気持ちが落ち着いたら、1階に降りて来て下さい。勉強会を始めますので」
「待って!!
……ボクは、絶対に真琴さんと契約を切ったりしませんからっ。真琴さんが何と言おうと、どんな事をしようとボクは契約を切りません!間違った事をしそうなら止めるし、正しい事なら...ボクも手伝いますから……1人で抱え込まないで下さいね」
言いたい事は言ったとばかりに逃げる様に部屋から出ようとする真琴さんの手を掴むと、ジッと相手の目を見つめて心の底からの言葉を紡ぐ。
泣き笑いに似た表情を浮かべぎこちなく笑みを浮かべた真琴さんは「……あまり待たせないで下さいね」と小さく呟くとそそくさと部屋を出て行ってしまう。
「………結局、どこで、どんな嘘を付いてるか全然分かんなかったなぁ…」
再びごろっとベッドに寝転がるも思考が纏まらないので、仕方なく起き上がると勉強会に参加する為備え付けられていた机に置かれていたノートと筆記用具を手にボクは1階に降りるのだった。
雪鬼のアイギス みきにゃんにゃん @mikito01
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