第8話

その後一旦家に戻った。

さすがに長老家から出たその足で、そのまま脱走っていう気にはならなかったんだろう。

俺としても一旦頭を休めたいから助かる。

「にしても、シリィは人が良すぎるな…」

なんでよく知りもしない…それも敵対しているはずの人間に対して、あそこまで信頼を寄せられるんだ。

あれじゃ簡単に騙されるぞ。

「テノワカゼ?」

「あー、ワカダンテ」

「ホスィセ。バョカゾダクセニワカダモ」

はぁ、単語なら判るんだけどな…。やっぱり会話となればブーストは必要か。

翻訳に使うと本来の効果が発揮できないんだよな。

あと、ずっと使ってなかったから意外と限界が早い。すぐに頭が痛くなっちまう。

できるだけ定期的に解除するようにしよう。

「さて、そろそろ良いかな…」

シリィの許へ向かう

「ユウ、準備できたの?」

「うん。って言っても特に持つものなんて無いけどね」

ずっと制服のままだしな。ポケットにメモ帳とペンが有る程度だ。

「じゃあ…行こっか!」

なんで楽しそうなんだよ…。

あれか?親の言いつけを破って遊びに行く感じか?

なんというか…シリィって単純に幼いのか?

そういえばハーピィの年齢って判らないな。もしかしてホントに若かったりして…

いや訊かないけどさ。

「ちゃんと掴まっててね」

シリィが俺の肩を掴む。

この状態だと腕が上がらないんだが…。どう掴めと。

「飛ぶよ!」

とりあえず動くのはやめておこう。落ちたら洒落にならない。

シリィが羽ばたくと、すぐに俺の体は宙に浮かんだ。

横穴を過ぎれば足元は真っ白になる。

下が雲しか見えないほど高いんだが、シリィは迷わずにまっすぐ進む。

周りの岩山を見て位置を把握しているんだろうか。

少なくとも俺を攫ったときは下がはっきり見えてたんだと思うが。

…今気づいたが、この高さに居ても寒かったり呼吸が苦しくなるようなことが無いのはどういうことだ?風は感じるんだが。

そういえば、転移がさらっと通じる程度には魔法がある世界だったな…。これも何かの魔法かもな。

しばらく飛んでいると、シリィが急に止まった。

「どうかした?」

「今目的地の上に居るんだけど…」

「何か変なことでも?」

「ガーゴイルが居なくなってる…」

「それって…何か問題があるの?」

あいつら割と追いかけてくるし、誰かが追いかけられてれば、居ない状態になることもあると思うが。

というか俺には下は雲しか見えないんだが…、やっぱり見えるのか。

「いや、別に問題は無いんだけど…ちょっと降りてみようか」

「大丈夫なの?」

「なにかあったら逃げるから。私に追いつけるような奴は滅多にいないよ?」

偶にいるんじゃねえか。まあ何も見当たらないっていうのは気になるな。

「じゃあ、降りてみようか」

「判った。行くよ!」

いや待て別に勢いを付ける必要はっ!!

「とうちゃーく!」

「なんで急降下したの…」

流石に怖かったぞ、今のは。

「ねぇ、見て!」

聞いてねぇし。

ってあれは…

「ガーゴイルの…死骸?」

って言っていいのか?

別に石像が壊れてるわけではない。ただ、倒れて動かなくなっているだけだ。

「ガーゴイルってこんな風になるものだったりする?」

「知らない。私はガーゴイルが死んでる姿なんで見たことないもん。でも、こんなに近づいて動かないなんて、在りえないよ」

なら、死んでるのか。ちょっと前に死なないって聞いたばかりだったんだが…。

「そうだ!今ならこのガーゴイルが守っていたものが分かるかも!」

この提案は正直ありがたい。ずっと気になっていたからな。

番人が居ないなら探る価値はあるだろう。

ただ、問題は。

「ガーゴイルを殺した存在が居るかもしれない」

「そんなのが居たら降りてきてないよ。何も居なかったから降りたんだもん」

……まあ信じるか。

「じゃあちょっと調べてみようか」

何か分かればいいが。

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クラス召喚で初日にいなくなった俺だが、誰か覚えているだろうか 永準 @08064306851

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