第4話
彼女の言葉はこそばゆく耳をくすぐると同時に「嘘」の意味が貴方にはわかりません。どういう事かと聞く前に彼女は追い打つように囁きます。
「覚えてますか? ずっと前に助けてくれたこと?」
貴方はわからないと正直に首を横に振ると、彼女の呟きはどこか淋しげです。
「そうですよね、あれは貴方にとっては当たり前な行動だったんだと思います。でも、わたしにはとても嬉しい事だったんですよね」
いったいどういう事かとたずねると。
「どういう事なのか? うーん、それを思い出すまでは教えられませんね。だって、癪じゃないですか、ヒントをあげないと思い出してもくれないなんて」
彼女は何処か拗ねた感じで耳から距離をとります。貴方は申し訳ない気持ちになりますが、彼女は「思い出すまでもっとゆっくり歩きながらお喋りしましょうか」とクスリと笑います。
「それではお話を戻しますけど、わたし、今日は天気予報をしっかりと確認して便利雨具な折りたたみ傘を持ってきてはいるんです。今もこの鞄にちゃあんと入っていますよ」
彼女はポンポンと軽く鞄を叩くとちょっと得意げにフフンと笑います。
「でもね、帰りに貴方を見かけたらこれはチャンスかも知れないなとね、悪いわたしが思ってしまったんですよ。傘を忘れたフリをして待ち構えていようと策略的にね。フフ、あの時のわたしは既に手ぐすねを引いたワルだったわけですよぅ」
得意げな笑みは彼女なりの不敵な笑みとなりますが、ワルというよりは可愛らしい印象の方が強いねと貴方は笑います。
「ちょっと、どうして笑うんですかぁ。ここはミステリアスなワルを演出したつもりなんですよ、わたしなりにっ」
彼女は膨れっ面にプイとしますが貴方がゴメンゴメンと謝ると顔をこちらに向けます。
「じゃあそろそろわたしに何をしてくれたか思い出しましょう。もちろんヒントは無しよりの無しで」
彼女をご機嫌にするには思い出せたほうがよいですがやはり貴方は思い出せずにごめんと言います。
「ふぅ、仕方ないですね。やっぱり貴方にはあれは当たり前の事だから、記憶には残ってはいないんでしょうね。ま、言い訳をせずに正直に言ってくれたのは素直に嬉しいです。そんな貴方をね、わたしはですね」
どこか嬉しげに彼女は自然と何かを言おうとしますが、口を押さえて「ムグッ」と言葉を飲みこみました。
「とと、危ない危ないこんなとこで言ってしまってはもったいないと何処かの危険な刑事さん達だって言うはずです。もっともリターンフォーエバーまだまだ危ないというやつです」
最後あたり彼女が何を言ってるのかは分からずに貴方は首を傾げます。
「いや、そこは流してください。おじいちゃんの好きな古いドラマの影響なので、直接的にわたしの心とは関係の無いものです」
彼女は「いいですね」と念押しをするので貴方は「はい」と従います。彼女は「よろしいです」と満面な笑みを魅せてくれました。今は雨だけど、すぐ近くに太陽はあるんだなと言いたくなりましたが、余計な事を言うとまた彼女は可愛く怒ってしまうかなと口の中の言葉を呑み込みました。
「ウ~ン、いま何か考えてたんじゃないですかぁ。よくない事だったら貴方も立派なワルですねぇ」
彼女がにやりと
「ふ~ん、そうですかぁ」
彼女は少しだけ眼を半分にしながら、鞄をゴソゴソとして折り畳み傘を取り出してきました。
「ほら、論より証拠な折り畳みが俺、参上てやつです」
得意げに言いながら彼女は折り畳み傘をバッと広げて、雨の走る空へと飛び出すと、あなたへと振り向きます。 SE///雨足が傘に当たり続ける音
「それでは、わたしはここで、帰り道ちょっとだけ付き合ってくれてありがとうございました」
ここでという事は彼女はひとりで帰ってしまうのか。あなたは慌てて「まだ、君を助けたって話を思い出してない」と告げると、彼女は傘をクルクルと回しながらちょっと悪戯に笑います。
「思い出せなかったから、タイムオーバーてやつですねぇ」
と、片目を瞑り「サヨナラです」と言って帰ってゆくので、あなたはすぐに彼女の後を追って隣に並びました。
「はい、なんでしょう?」
見上げる彼女の眼は何処か期待しているように見えるのは、あなたの自惚れでしょうか、それとも。
「ここからは、こっちに付き合ってよ、思い出してみせるから」と、あなたが言うと彼女は雨雲な空を眺めてあなたに向き直りました。
「仕方ないですねぇ、付き合ってあげましょう。タイム・リミットは地球が回るまでです。コンピューターに天使は宿るて言いますからねッ」
彼女の言っている事はやはりあなたにはちょっと分からないけど「地球が止まったら大変だよ?」と笑いながら、隣歩く太陽の笑顔を絶やすものかとあなたと彼女は雨の中をまだもうちょっとだけ下校するのでした。
雨の日に君と下校する もりくぼの小隊 @rasu-toru
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