9話
夏休みが始まった。
宿題は半分はこなしていた。
残り半分はとっておいたのだ。
彼と宿題をするために。
その日がやって来たのは、夏休みが始まって1週間後のこと。
「じゃあ始めようか」
私から見たら、
「頑張ろうね」
「うん、頑張ろう」
市民センター内にある無料で使える部屋で、2人だけの勉強会が始まった。
クーラーも無料で使ってもいいから有り難い。
各々集中しつつ、分からない所は教え合い、助け合いながらやった。
1時間が経過した頃。
「休憩にしない?」
大野君にそう言われて、集中し過ぎて頭が疲れているなんて気付かなかった。
休憩という言葉で、ふっと力が抜け、どっと疲れがやってきた。
「そうしよっか」
良かった、休憩だ。
「下に喫茶店あるし行かない?」
「冷たいのほしいから行こう」
1階にある喫茶店に向かった。
※
対面で他愛ない話をしていた。
ここの喫茶店はちょっとレトロな雰囲気があり、落ち着いて寛げる癒やしの場所。
メニューはイタリアン系、スイーツと定番がずらり。
季節に合わせての飲み物は格別である。
お気に入りはかぼちゃのスムージー。
かぼちゃの甘さがたまらない。
「お待たせしました」
私が頼んだカルボナーラ、大野君が頼んだジェノベーゼがきた。
真ん中にはポテト。2人で食べるのだ。
手が触れないように気を付ける。
「「いただきます」」
※
楽しい昼食からの勉強。
お腹いっぱいで眠たくなったが、なんとか勉強に集中しろと念じていたら、眠気は消えていた。
分かりやすく教えてくれる大野君。
良い声、タイプの顔、性格なんて申し分ない。
この人が彼氏だったら…。
自分にはもったいないな。
ちょっと諦めモード。
私なんかより、素敵な人はいる。
貴方は私のこと、どう思っているのかな?
この答え、まだ聞きたくないから、質問はしない。
両想いかもしれないという確信した時か、どうしようもなく聞きたくなった時に問おう。
それまでは、淡い恋心を密かに大事にしよう。
「ここまでにしようか」
「うん」
大野君のタイミングで勉強会は終わった。
※
2人で帰る時のこと。
「あのさ」
「どうしたの?」
いつもサラッと話すのに、やけにもちゃもちゃしているように見えた。
もちゃもちゃ、というのは、ごにょごにょとか、ぐちゃぐちゃみたいな感じ。
数十秒経過してから、大野君はこう言った。
「夏祭りの予定ってある?」
絞り出すように言ったのは分かった。
これはドキドキしていたのかもしれない。
違っていれば自分はおバカさんだな、なんて思いつつ。
ようやく聞いてくれた。良かった良かった。
私は「誰とも行く予定はないよ」と言った。
「じゃあ、一緒にどうかな?」
待ってました。
「うん、一緒に行こう」
笑顔で言えた。嬉しかったから。
すると彼も笑顔とホッとしたような表情になった。
楽しみだな、夏祭り。
本からの贈り物〜葵の初恋〜 奏流こころ @anmitu725
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