9話

 夏休みが始まった。

 宿題は半分はこなしていた。

 残り半分はとっておいたのだ。


 宿


 その日がやって来たのは、夏休みが始まって1週間後のこと。


「じゃあ始めようか」


 私から見たら、大野おおの君はいつ見ても爽やかだなと思い、危うく見惚れそうになる。


「頑張ろうね」

「うん、頑張ろう」


 市民センター内にある無料で使える部屋で、2人だけの勉強会が始まった。

 クーラーも無料で使ってもいいから有り難い。

 各々集中しつつ、分からない所は教え合い、助け合いながらやった。

 1時間が経過した頃。


「休憩にしない?」


 大野君にそう言われて、集中し過ぎて頭が疲れているなんて気付かなかった。

 休憩という言葉で、ふっと力が抜け、どっと疲れがやってきた。


「そうしよっか」


 良かった、休憩だ。


「下に喫茶店あるし行かない?」

「冷たいのほしいから行こう」


 1階にある喫茶店に向かった。



 対面で他愛ない話をしていた。

 ここの喫茶店はちょっとレトロな雰囲気があり、落ち着いて寛げる癒やしの場所。

 メニューはイタリアン系、スイーツと定番がずらり。

 季節に合わせての飲み物は格別である。

 お気に入りはかぼちゃのスムージー。

 かぼちゃの甘さがたまらない。


「お待たせしました」


 私が頼んだカルボナーラ、大野君が頼んだジェノベーゼがきた。

 真ん中にはポテト。2人で食べるのだ。

 手が触れないように気を付ける。


「「いただきます」」



 楽しい昼食からの勉強。

 お腹いっぱいで眠たくなったが、なんとか勉強に集中しろと念じていたら、眠気は消えていた。

 分かりやすく教えてくれる大野君。

 良い声、タイプの顔、性格なんて申し分ない。

 この人が彼氏だったら…。

 自分にはもったいないな。

 ちょっと諦めモード。

 私なんかより、素敵な人はいる。


 


 この答え、まだ聞きたくないから、質問はしない。

 両想いかもしれないという確信した時か、どうしようもなく聞きたくなった時に問おう。


 それまでは、淡い恋心を密かに大事にしよう。


「ここまでにしようか」

「うん」


 大野君のタイミングで勉強会は終わった。



 2人で帰る時のこと。


「あのさ」

「どうしたの?」


 いつもサラッと話すのに、やけにもちゃもちゃしているように見えた。

 もちゃもちゃ、というのは、ごにょごにょとか、ぐちゃぐちゃみたいな感じ。

 数十秒経過してから、大野君はこう言った。


「夏祭りの予定ってある?」


 絞り出すように言ったのは分かった。

 これはドキドキしていたのかもしれない。

 違っていれば自分はおバカさんだな、なんて思いつつ。

 ようやく聞いてくれた。良かった良かった。

 私は「誰とも行く予定はないよ」と言った。


「じゃあ、一緒にどうかな?」


 待ってました。


「うん、一緒に行こう」


 笑顔で言えた。嬉しかったから。

 すると彼も笑顔とホッとしたような表情になった。


 楽しみだな、夏祭り。

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本からの贈り物〜葵の初恋〜 奏流こころ @anmitu725

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