第三十一話「日常は続いていく」
「シノさま。今晩は何か食べたいものはありますか?」
「んー。アリスのおまかせで」
「かしこまりました。それではお魚にしたいと思います」
キッチンから顔を覗かせるアリスとそんなやり取りをする。
アリスの手元にはフライパンが握られていて、小さな手を器用に使って卵焼きを作っているところだった。
俺が朝からバイトのシフトが入ってると、決まって朝食に卵焼きが一品増えて用意してくれる。
そもそも俺一人の時は朝食なんと習慣はなかった。
アリスが食費の財布を握るようになってからは、何故だか一人の時よりも抑えられて、健康のためにも朝食を用意してくれるようになったのだ。
8枚切りの食パンと卵焼きが運ばれると、アリスと揃って「いただきます」を唱える。
アリスが迷子になってから数週間。
アリスが来てからもう数ヶ月が経つ。
今ではアリスが家事をこなしている様子は板についてきて、すっかり俺の日常の一部になっている。
アリスを迷子から連れ帰った後、嬉野さんにはびっくりするほど怒られた。アリスがだ。
多分、怒っている嬉野さんの姿に、アリスより俺のほうが驚いていたと思う。
アリスを怒って、叱って、それで「私がサプライズなんて言っちゃったからだよね。ごめんね」と謝って、アリスをギュッと抱きしめた。
そんな光景を見て、嬉野さんは絶対にいいお母さんになると思った。
「シノくんのことだから、アリスちゃんのことしっかり叱ってあげられてなかったでしょ」
と、その後にアリスのいないところで言われた。
どうやら俺の代わりに叱ってくれたらしい。面目ない。
「それでーなんだけど……」
「はい?」
「これでアリスちゃんに嫌われたり怖がられるようなっちゃったら私、立ち直る自信がないから、ちゃんとフォロー、お願いね」
なんて切実なお願いをされた。
翌日にはそんな心配も杞憂だった事は火を見るよりか明らかで、アリスは相も変わらず嬉野さんの家にお邪魔している。ほんと、迷惑なんじゃないかってほどに。
そして、アリスが嬉野さんのところに行くと、より女の子になって帰ってくる。
この前は爪のお手入れを教わったようで、ピカピカになっていた。
そんな穏やかな近況を思い出しながら、アリスが作ってくれた甘く仕上がっている卵焼きを口に放り込んで、薄いトーストを齧る。
そして、最近の癖でアリスが買ってきてくれたフィギュアを見る。
「今日雨降るのか」
「はい。こうすいかくりつ80ぱーせんとです。傘を忘れないように気をつけて下さい」
雨だとわかった理由はフィギュアの顔パーツの表情が泣いていたからだ。
どういうわけか、アリスは毎朝天気予報に合わせてフィギュアの顔パーツを変えるようにしている。
晴れなら笑顔。雨なら泣き顔って感じに。
マメだなぁ。なんて最初は思っていたけど、これが意外と便利で、今ではフィギュア天気予報をアテにして外出するようになっている。
「さてと。今日も行ってきますかね」
「はい! 行ってらっしゃいませ!」
こうして俺の日常が始まる。
そして、ライトノベル作家を目指す俺と、不思議の国からダンボールに詰められて送られてきたアリスの共同生活はまだまだ続いていく。
+。:.゚ஐ⋆*♡・:*ೄ‧♪
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました!
残念なことにシノさまから預かっている私たちの物語は以上となります。
いかがでしたでしょうか。
ちゃんと小説になっていましたでしょうか。
これからもシノさもの作品を投稿していきたいと思っていますので、是非そちらも読んでいただけると嬉しいです!
それではまた別の作品でよろしくお願いします!
異世界からエルフ少女が宅配便で届く。俺の奴隷らしい。 篠原シノ @Shino_Alice
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