第37話~美食~
蒼魔族の長、ミスラは四つん這いでお尻を突き上げていた。こんなはしたない姿は一族の誰にも見せたことがない。蒼魔族の長としては常に気丈に振舞うミスラだが、魔王の前ではただの女でしかなかった。
四つん這いのミスラに双頭の蛇である魔王が絡みつく。衣服の中に入り込んだ片方の頭は胸に、もう片方は腰に巻き付き脚の付け根に進む。
勇者に敗れ転生する前は、この姿のミスラを見下ろしながら幾本もの触手をその身体に這わせ、快楽と共に力を注いでいたものだ。
「どうだ、久しぶりの感触は?」
「姿は変われど、この触れ方は魔王様の……ひゃうん!」
片方の頭が、ミスラの胸にしゃぶりつく。二つに割れた長い舌で、その突起をチロチロと舐めた。
「あっ、あぁああ!」
いともたやすく突起は隆起した。舌が絡みつき締め上げるとミスラは悲鳴のような声を上げた
「んぁあああ!」
魔王が部屋に《沈黙》の結界を張ったのは、これが理由でもあった。ミスラは行為中の声が大きく。本人にも抑制できないのだ。
もう一方の頭は尻の割れ目を添い、秘部へと達した。既に潤っているそこへ、矢じり型の頭を挿し込む。
「はぁぁぁ! い、いきなり、そこはっ!」
蛇の頭がミスラの中で動く。鱗のザラザラが膣内を擦り上げる。柔らかな触手とはまた違った感触に、ミスラの腰がうねる。
「あぁっ! いぃ、中で、擦れて……あっ、そこっ!」
幾度となく抱いた身体だ。どこが弱いのかは手に取るようにわかっていた。しかし、今回はミスラを絶頂へと導くのは避けなければならなかった。魔力を与えるのが目的であり、奪うことではないからだ。今の器では、魔王は自らの精を女の胎内に放つことはできない。それが、魔王にはもどかしかった。早く完全な肉体を取り戻し、以前のように女と交わりたかった。
「いくぞ、受け取れ!」
魔王蛇の頭から胎内へと魔力が注がれる。
「うくぅぅ!」
歓喜に震えるミスラの肌には艶が戻り、力が満ちていた。
ミスラから離れた魔王は《沈黙》の結界を解いた。ミスラは立ち上がると、拳を二回ほど握った。胎内に注がれた魔力が身体に満ちていた。それは、まだ十分ではなかったが、少なくともこれで無様な戦いにはならないと思われた。
「魔王様、感謝いたします」
「それはまだ早い。お前には完全に力を取り戻してもらうつもりだからな」
「しかし……」
「そろそろ、良い時間だと思うが……」
「時間?」
魔王蛇は外を気にしていた。すると、里の様子が騒がしく喚声のような声が聞こえてきた。
「あの声はいったい……」
「どうやら、上手くいったみたいだな」
魔王はアンジェに思念を送り、話は終わったと告げた。すると、しばらくしてアンジェと共にミスリアが駆け込んできた。ミスリアは少し興奮状態にあった。
「あ、姉上! これを!」
「これは?」
皿の上に乗せられていたのは加工された鉱石であった。
「アンジェ様と共にいた人間が作ったものです。私はこれほどまでに美味いものを食べたことがありません。いや、そもそも、あのような調理法があったとは」
蒼魔族は主に鉱石を糧とする。採掘した鉱石を食べやすい大きさに砕いたり溶かしたりする術はあるが基本は鉱石そのものを食す。人間の鍛冶のように複数の鉱石を混ぜ合わせることで強度を増したり、特性を変化させたりする技術は持ち合わせていなかった。
「さぁ、姉上も! 熱いうちにどうぞ」
ミスラは恐る恐る皿の上のものを手にすると、一口噛んだ。
……パリッ!
芳醇なミスリル銀の香りが鼻腔に抜ける。しかし、純度の高いモノにありがちなしつこさは全くなく、滑らかな舌触りで後に引く微かな苦みが、アクセントになっている。
「う、うまいっ!」
ミスラはバリバリと一気に料理をたいらげた。
「この、後に引く微かな苦みは……鉄だな」
「さすがは姉上! ですが、これだけではないのです。あの男にかかれば、酸味の強すぎる銅なども、実に美味になるのです」
その様子を不思議そうに見ているアンジェの元に、魔王蛇は飛び移ると、定位置である胸元に潜り込んだ。
「いったいどういう事なんですか?」
「タルスは腕のよい鍛冶屋だ。鉱物を食す蒼魔族の中では一流の料理人となりえる。美味いモノを食べたいと思うのは、どの種族だろうと共通だ」
タルスはミスティから蒼魔族が持つミスリル銀の加工法を教わり、それを自らの技術に取り入れていた。魔族と人間の技術の融合は新しい可能性だった。魔王はその技術を魔族に取り入れるつもりであった。優れた武器は、それだけで力のバランスを変えてしまう。そして、ミスリル銀を加工させ食事にした理由は他にもあった。
ミスラは震える身体を自らの両手で抱きしめた。魔力がさらにミスラの身体に満ちて来ていた。
「あぁ、力が……」
ミスリル銀は、ミスラ達の一族にとっては、もっとも魔力吸収のできる食料、力の源でもある。魔王によって注がれた魔力と、ミスリル銀の力で、ミスラの筋肉は一回り大きくなっていた。
「これで良い。ミスラ、アダマン族のやつらを、再度従えるのだ」
「はい!」
自信に満ちた表情で、ミスラは頷いた。
復讐の魔王は、転生を繰り返し女勇者を手籠めにする。 異常那月 @ijonatuki
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