GAME OVER
―――地球。
―――日本。
―――某都内。
―――マンションの一室にて。
「うわぁぁぁぁ!!マジか!!クッソォォォォォッ!!」
叫び声と共に男が倒れ込んだ。
倒れた先は、ふかふかの布団の上なので、痛みはない。
むしろ、彼の沸き上がる怒りを、ほんの少しだけ和らげてくれる。
彼がつい先程まで観ていた液晶画面。
そこに映し出されたのは『GAME OVER』の淡々とした文字。
「えぇぇ??何で??どうして??」
男はうずくまり、頭をガシガシと掻き毟った。
だが、直ぐにバっと起き上がる。
「いやでも凄くね!?めっちゃ凄いとこまで行った気がする!!」
また液晶画面の前へと戻り、傍らに置いてあったキーボードをカタカタと慣れた手付きで操作する。
すると画面には掲示板が映し出される。
掲示板のタイトルは『ヴォルクス 攻略サイト』とデカデカと書かれている。
「えーっと…アルヴェル、アルヴェル…やっぱり掲示板に載ってないぞ!?」
その事実に気が付くと、僕は感極まった。
これはつまり、さっきまで僕がやっていたルートは、まだ誰にも発見されていない、未知のルートだったって事だ。
「やった、やったぞ!!やっぱりこのゲームには隠し要素があったんだ!!」
そうと分かれば早速、掲示板に新たな情報を掲載しなくちゃな。
「えーっと、スレッド開いて…新情報を、発見しました。まだ攻略にも、載ってないルートで…」
さっき起こった事をそのまま掲示板に書き込んでいく。
『ヴォルクス』
それは3ヶ月前に発売されたゲームである。
そして、このゲームにはある汚名が付けられている。
それは『クソゲー』だ。
何故、このゲームはそう呼ばれているのか。
発売当初は、その謳い文句に世間が驚いた。
「最新のAI技術を用いて、1人1人のキャラクターが、まるで本当に実在するかの様に行動する。新感覚のハートフルファンタジーシミュレーションRPGゲーム」
…いやハートフルて何だよ。
そもそも色々な要素詰め込み過ぎてるよな、このゲーム。
「このゲームは今までの選択して決められたルートに辿り着くだけの恋愛ゲームとは訳が違います。最新のAIを搭載し、全てのキャラクターに命が吹き込まれており、キャラクター毎に設定されている行動を取ります」
それがもし本当なら、まさに革命的。
この謳い文句を信じた人達は、発売日当日にゲームソフトを買っていったのだった。
その販売数は歴代の名作ゲームソフトを軽く凌駕した。
だけど、異変…というか、悲劇というべきなのか。
発売日3日目にしてプレイヤーからのクレームがゲーム会社に殺到しだした。
そのクレーム内容は…。
・『◯◯から進めない』
・『何をやっても主人公が死ぬ』
・『同じルートにしか行けない』
・『なんだこのクソゲーは』
・『何が最新AIだ』
・『金返せ』
こんなクレームがゲームレビューに書かれていた。
レビューだけでなく、直接抗議の電話やメールも、制作会社に殺到したに違いない。
発売日から10日後、ゲーム制作会社から謝罪会見が行われる事となった。
しかし、それもまた酷い内容だった。
社員や社長が平謝り。
ゲームを改善したくても、開発に携わった人が、どうやら行方知れずで不可能だとか。
最新AIの方を使用しているが、不具合なのか、機能しているのかどうかも分かっておらず。
そのAIを取り除いたりする事も、どうする事も出来ないと釈明をする始末。
最終的に購入者全員に返金をするという決断が下された。
お金が返ってくるのであれば、まぁ…と引き下がる人達は多かったので、この事態は終息に至った。
しかしゲーム会社としては、数ヶ月費やして作ったゲームの利益を返さなくてはならないという事態に耐えきれなかった。
発売日から1ヶ月後、この『ヴォルクス』を製作した会社は倒産してしまうのだった。
今では、無料でこのゲームを手に入れる事が出来る。
出来るが、誰もやろうとはしない。
売り上げは凄かった、伝説のクソゲーとして、今でも語られているだけの存在となった。
そんなゲームを、何故僕は今更プレイしているのかと言えば、特に理由はない。
ただ、クソゲーをするのが趣味。
それだけだった。
実際プレイしてみると、ゲームの雰囲気事態は凄く良い感じだ。
その辺の恋愛シミュレーションゲームと違って、選択肢的なのも見当たらないし、プレイヤーが何をするのも自由だった。
そこは凄い、凄いが、結局行き着くEDは限られていた。
そして、僕も他のプレイヤーが観た事があるEDにしか辿り着かない一人だった。
何をしても主人公が死んでしまう。
プレイ開始から5日目にして、どうする事も出来ずに頭を抱えて、ゲームを起動したまま放置していた所だった。
それが結果的に凄い事になった。
攻略サイトには載ってないルートの発見に繋がったのだから。
僕は攻略サイトの掲示板に自分が何をしたのかを書いていく。
学院の前で追い返された所で放置プレイしたのだ。
ただそれだけだったのだが、それでもサイトに載ってないって事は、誰も試してないって事だ。
…まぁ、それもそうか。
放置してたら別のルートが発見出来るなんて、誰が想像出来るだろうか?
僕も本当にたまたま見つけただけ。
でも、心の奥底で、何かこのゲームにはあるはずだと信じてた自分がいる。
結果はまぁ…主人公は死んでGAME OVERだったけど。
アルヴェルという新キャラの事、何が起きたか、最終的にどうなったかを書き込んで投稿し終わった。
そこで、一息吐く為に、また布団へと倒れ込む。
「しかしなぁ〜、何がダメだったんだ?」
元々RPG的な要素もあったが、主人公はその辺のモンスターに遭遇して死んでしまう。
だからこそ、今回の新ルートで、訓練を受けたのはとても重要な気がする。
実際、訓練モードみたいなのがあって、それはめっちゃ楽しかったし、色んな技を習得した。
…夢中になって、隠れて訓練し続けたのが不味かったのか?
……考えても仕方ない。
ちょっと疲れたし、シャワーでも浴びてくるか。
僕は、ゆっくりとした足取りで浴室へと向かうのだった。
シャワーを浴びてサッパリした頃には、深夜1時を過ぎていた。
僕はさっきの掲示板を、タオルで髪を乾かしつつ、更新ボタンを押した。
すると、新しい書き込みが何件かある。
「どれどれ…『妄想乙』…いやホントなんだって。他には…『こんなクソゲーまだやってたアホいるんだ。おつかれ』…碌な書き込みないな」
新発見をしたのが嬉しくて、ついその場のテンションで投稿したけど、冷静に考えれば、この反応は正しいかもしれない。
皆は他の面白いゲームを見つけてやってる。
もはや、僕だけがこのゲームをやり続けているんだろう。
掲示板を閉じて『ヴォルクス』を開くと、さっきの『GAME OVER』の字が映ったままだった。
はぁ、と溜め息を吐いた。
今日はもう寝るとしよう。
僕は、そのまま布団へ3度目のダイブをするのだった。
「ヴォルクス」古代の呪い魔法 主人公が凡人なので、この世界は壊滅しました 御稀幻妖(ゴキゲンヨウ) @gokigenyou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます