第2話 他人と自分

この世界で最も長く続く愛は報われぬ愛である。

 人を好きになり、ずっとその相手といるといつしか好感度の量が時間とともに減少し、最悪の場合嫌いになることもある。

 好きという感情の賞味期限は3年が限度という噂があるように、いかに一人の人を好きでい続けるのが難しいことか。

 だからこそ、死んでしまった人を想い続ける恋愛というのは、消えない感情を抱き続けながら苦しみながら、それでも過去の幸福に満たされる綺麗で崇高な心の現象である。

 いつしか、俺にもそんな相手ができることを願っていたり、めんどくさいような気もしていたり、純愛悲恋物の二次元コンテンツを好きな俺には夢であり憧れである。

 そんな俺は、今日も放課後いつもの日課にてしいる、図書館でラノベを読んでいる訳である。


「あっいたいたかける。今日も暇してる?」

「二度目ましてなのにもう名前呼びか……そしてどこをどうみたら俺が暇に見える。俺の手元をよーく見てみろ」

「そんな照れなくていのに。ん?ラノベのこと?」

「そうだ」

「そんなことより聞いてよ、昨日やったゲームがおもしろくて!」

この女、全く俺の話を聞かない。うん、想像はついてたよ。

「舞台は人類が宇宙生命体に襲われた日本、特殊な武器を持つ女の子6人が世界を救う物語なんだけどね」

「ほぅ、アニメだけでなくゲームもするのか」

「その中でね、とても仲の良い女の子二人組がいるんだけど、お互いとても信頼していて結婚すればいいのに!ってくらい仲が良くてお互いがいないとこの世界にいる意味がないってくらい純愛なんだけどね!」

「ほうほう、そのゲームは百合系なのかな。女で百合好きとはコアだな」

「その女の子一人が、宇宙生命体との死闘の末、死んでしまうの……」

「おう、急に話が重くなってきたな。なんだそのテンションの落差は」

「ヒロインの女の子は宇宙生命体に食べられてしまって、残された女の子は生きる希望を失い、お前がいないと、生きている意味がないだろ……ってとてつもなく好きな人がいなくなった現実に絶望して、宇宙生命体と戦うこともやめ廃人になってしまうの」

「二次元では死を扱うことで心を揺さぶるのはよくあるパターンだからな」

「でもね、ここで終わらないのが二次元。ヒロインの生命反応が確認され、みんなで助けに行くの!んー、ご都合主義ハッピーエンド最高だよ!」

「おお、よかったな。最後が幸せならなによりだ」

「ねえねえ、他人と自分って、どこからが境目だと思う?」

「また唐突だな。他人と自分か。俺がお前と話していることは他人と認識できる手段であると俺は思う」

「お前じゃなくてるなって呼んでよね。そうだね、それも他人と自分を区別できるよね」

「ああ、自分とは何かわからないことがたまにあるが、他人と話すと俺はこういう性格で、こういう人間なのだなと相手と比べることで自分が理解できる」

「じゃあどうして、この世界に自分以外の人間、または生物が存在するのだと思う?」

「なんだろう。既にあったからそういうことは考えたことがなかったが、一人だと寂しいからじゃないか」

「結構女の子みたいな風に考えるんだね。」

 そう言われて、俺はそんな風に思っているのだなと自覚した。

「いざ考えてみると、率直にそう思っただけだ」

「私はね、他人とは自分を成長させるために存在するのだと私は思うよ」

「なるほど」

 こうやって話しているのも、いい刺激を受けているのだと思う。

 家で一人でいたり、他人がいないという世界に存在していたら、他人を認識することすらできないからな。

「どうして、人は他人と関わりたいと思ってしまうのだろうね」

 るなは突然椅子から立ち上がり、図書室の窓辺のカーテンの中へと隠れた。

「自分を、知って欲しいと感じるからじゃないか?」

他人と話すのなんて、自己承認欲求を満たすにはうってつけの手段であるしな。

「それもあるかも。でもね、私はね」

 るなは目を瞑り息を小さく吸い込みながら

「私は、他人に自分の存在を刻みつけたいと感じるからだと思うよ」

そう、小さく呟いて、るなは駆け足でその場を去ってしまった。


「本当に、唐突に現れて消える女だな」

 るなが現れてから、いつも憂鬱な俺を惑わせてくる。

 なにもない空虚な俺の心を、グラスに水が満たされていくかのように。







 


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頭のおかしいやつに絡まれてる件について 雨冠雫 @crownsizuku

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