4.冬支度(2) ロウソク作り・前編
「今日はマルル達が来てたのか」
「うん。にぎやかで楽しかったし、マルルのお姉さんっぽい顔が見られて新鮮だったよ」
「優しいお姉さんって感じか?」
「かっこいいお姉さんだったかな」
エリクは「想像できないな」と首をひねりながら、膝の上のブロンをなでた。
マルル達が訪ねてきた夜、シュゼットとブロンとエリクは、デザートにトニを食べてから、アロマテラピーをしていた。
マジョラム、ジュニパー、ローズマリーの精油をオイルに混ぜ、腕を優しくなでていくと、エリクは心地よさそうに目を閉じた。これらの精油には、血液循環を良くし、筋肉を緩める効果があるのだ。この頃、仕事から帰ってきたエリクが自分で腕や肩を揉んでいるのに気が付いたシュゼットは、夜に時間を作ってもらったのだ。
「肉体労働は慣れてるつもりだったけど、さすがに疲れたみたいだ」
「そりゃそうだよ。少し前まで睡眠も足りてなかったんだから。疲れたまま寝たら、良い睡眠がとれないし、こうしてちゃんとケアしないと」
「ありがとな、シュゼット」
シュゼットはニコッとして「どういたしまして」と答えた。
「シュゼットは? ちゃんと寝れてるか?」
「うん。寝る前に必ずセルフケアをするようになったら、ぐっすり!」
「そりゃよかった」
エリクは目を細めて優しく微笑んだ。
「エリクは明日もマリユス教授のところだよね」
「ああ。シュゼットは?」
「ロウソク作りをしようと思ってる。毎年秋の間にまとめて作ってるんだ」
「そっか。また手伝えなくて悪いな。大変だろ」
「気にしなくて良いってば。いつも二人でやってるから、すぐ終わるよ」
翌朝、エリクが家を出て、シュゼットとアンリエッタがミツロウに火をかけ始めると、町の子供たちがやってきた。
「おはよお、シュゼット」
ドアをノックしたのは、コラリーだ。その後ろには、兄のエクトルやその友達のクレールとリアーヌも立っている。
「おはよう。みんなお揃いでどうしたの?」
「へへっ。実は新しい友達ができたから、シュゼットにも紹介に来たんだ」
「嬉しい! ぜひ紹介して!」
エクトルの後ろからひょこっと顔を出したのは、なんとロラだ!
シュゼットはあまりの驚きに「えー!」と飛び上がり、足元のブロンは「キャウッ!?」と素っ頓狂な声を上げて固まった。
「ふふふ。驚いた、シュゼット?」
ロラは頬を赤くして、にんまりと笑う。
「お、驚いたよ! だって、ロラ、外に出て平気なの?」
「最近は調子が安定してるから、友達と一緒なら良いって」
シュゼットにそっと肩を掴まれたロラは、はにかみながら答えた。
確かに顔色はよく、呼吸も安定している。
シュゼットはロラを優しく抱き寄せ、「よかったね」とささやいた。
「うんっ。これからはみんなとたくさん遊びに来るわ」
「楽しみにしてるね」
二人はにっこりと微笑みあった。
「ところで、今は何をしてたの?」とリアーヌ。
「ロウソク作りをするところ。だから、せっかく来てくれたけど、一緒に遊ぶのは難しいんだ。ごめんね」
「えっ! ロウソクって作れるの!」
ロラは驚きの声を上げた。それはシュゼットが初めて聞く、ロラの叫び声だった。
「大抵手作りだぜ。うちも週末にやるって言ってた」とクレール。
周りの言葉にロラは目をパチパチさせ、「し、知らなかったわ」とつぶやいた。
「それなら、シュゼットのロウソク作りを手伝うのはどうだ? そしたらロラもロウソク作りを体験できるってことだろ」
「わあ。お兄ちゃん、良い考え。お手伝いしても良い、シュゼット?」
コラリーはブロンを抱き上げて、フワフワとなでながら尋ねてきた。ブロンは気持ちよさそうに目を細めている。
「手伝ってくれるのは助かるけど、みんな退屈じゃない? 家でも毎年やってる作業だし、地道だし」
「でもわたし、やってみたいわ」
「ロラもこう言ってるし良いだろ、シュゼット? みんなでやれば楽しいじゃん!」
「わかった。それじゃあ、お願いしようかな」
エクトルとロラはパチンと手を叩いて、「やった!」と微笑みあった。
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