第44話 素直③

 俺は、自分の耳をうたがった。自分の母親が、結婚前につねに5人の男と仲良くしていたとのことだ。当たり前のように言ってきた。


「何よ、別にお付き合いしている人がいなかったんだから、いいじゃない。皆、優しくてカッコ良くて、1人に決めるなんて無理よ」


 俺は “ 水ぶっかけられたのって、コイツのせいじゃね?” と、一瞬思った。いかんいかん、自分のお母さんだ。遺伝子いでんしのせいにしてはいけない。


「お母さんね、あなたよりも恋愛はダメだったかもしれない。だって、面食めんくいなんだもん。カッコいい人が好きでね。毎日、ときめいていた。ああ、今日のあの人、こんなところが素敵すてきだった。あ~、どうしよう話しかけられてきちゃった」

「へぇ~」

「もう、れやすくて、れやすくて。すぐ、人を好きになっちゃう。そして、ねっしやすくてめやすい。毎日、ドキドキワクワクよ。大丈夫、付き合っている訳じゃないから、お友達よ。お友達。でも、皆、カッコ良かったの~」

「ほぉ、おいそがしい」

「そしてね、毎日、毎日、その5人のカッコいいところを話していたの~」


 同時どうじに5人かぁ、何だろうコイツ、最悪じゃん。母親じゃなかったら、きっと、そう思っていただろう。


「どう、思った? コイツ、最悪じゃんって思ったでしょ。最低だなって」

「あ、ごめん。ちょっと思った」

「良いのよ。それをね、毎日、言ってたのを聞いてくれていた人がいたの」

「誰?」

「あなたの父親よ」

「はぁ!?」

 お父さんに、毎日、別の男の良さを話していただと!? お母さんは、イタズラっぽく笑って見せた。俺は、まったく信じられなかった。どういう神経しんけいしてんだ父よ。


「お父さんね、結婚して後から聞いたことがあったんだけど。その時、最初は嫌だったんだって。毎日、好きな男の話ばっかり、とっかえひっかえ、この女はって」

「えっ? お父さんとは、その時、どういうご関係?」

「う~ん、話を聞いてくれる、ただのクラスメイトって感じかな」

「なんて、人だ。お父さん、よく怒らなかったな」

「そうだよね、なかあきれてたよ」

 アハハハハッと、お母さんは笑った。いや、笑い事じゃねぇ。ひとしきり、笑った母さんは落ち着いて、続きを話した。うれしそうに、いとおしそうに。


「ある日、お父さんが言ったの。ただのクラスメイトだった時、なんとも思ってなかった。その時に……」

「なんて?」

「落ち込んでいる君よりも、他の好きな男の話でも笑っている君の方が良い。最初は嫌だったけど、ずっとかされていてもキラキラしている方が良い」

 おおっ、どういう意味? 俺は、自分が言われた訳じゃないけど、ちょっと照れた。


「そうすると、今までの5人の男の人に対する気持ちがシュ~とめちゃって。お父さんが気になり始めたの。あれ? 私、なんかおかしくなったかなって」

「えっ、あんなに夢中むちゅうになっていたのに?」

「うん。なんか、今までのこのみとかが全部、冷めちゃって。多分、恋にときめいている自分に、ときめいていたのかな。初めて、目の前のお父さんと向き合ってみた」

「おおっ」

「その時に、初めてお母さんから行ってみたいところがあるって言ったの」

「どこ?」

「車の展示てんじショーみたいなイベント。展示会てんじかいみたいなの」

「誰が?」

「私が」

免許めんきょ持ってたっけ?」

「ううん」

「初めて、自分の好きなものを言ってみた。今まで、車とか見てみたくて、男っぽいって思われるかなって。でも、この人なら聞いてくれるかなって。怖かったけど」

「それで、行ったの?」

「うん、行った。初めて、心から楽しかった。だから、相手と素直に話してみるって怖いけど、大事な事だと思った」

「そうだね、お互いに怖いよね」

「だから、もし、仲良くなるのが怖いなら、ちょっと極端きょくたんだけど。あなたが嫌だと思うことがあっても、その相手と一緒にいたいかどうかって。まぁ、無理しない程度ていどにだけど」

「そっか、その時みたいに、問題や悩みが起きた時に話が出来る相手かどうかも、大事だね」


 相手と話をしてみようか、何が不安で、こわくて、止まっているのか。相手が受けとめきれなかったとしても、それは相手の感じたこと。それもふくめて、俺はあの人の事を好きでいられるだろうか。
















































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はじまりの後 水上絢斗 @mizuaya-710

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