第43話 素直②

 久しぶりに夏季休暇かききゅうか有休ゆうきゅうを組み合わせて、実家に帰省きせいした。初日は、疲れているだろうからと、ゆっくり朝寝坊あさねぼうをさせてくれた。もう、昼ご飯の時間になる。お父さんは仕事でいなかった。キッチンから、なにやらにおいがしてきた。

「何、作ってんの?」

「久しぶりに鳥そぼろが食べたくなってね。あんたも食べてく?」

「うん、いいにおい」

 思わず、調理しているお母さんの近くに行って、フライパンをのぞき込んだ。

 ちょうど、鶏むね肉のミンチが徐々じょじょに火が通り色を変えて、そこを満遍まんべんなくはしで、かき混ぜていた。

「ああ~、美味しそう」

「もうちょっとで出来るからね。あ、ご飯、冷凍庫れいとうこにあるから茶碗ちゃわんに入れてレンジであたためてくれる?」

「いいよ」

 冷凍庫れいとうこに、一食分ずつご飯をラップに包んでいた。冷凍ご飯ってやつだ。俺は、小さい頃からご飯はそうしてきたから、別にき立てでなくても違和感いわかんはなかった。


 食卓には、鳥そぼろとたまご冷奴ひややっこ、トマト、味噌汁みそしるならべられた。いたって、普通のお昼ご飯。俺が帰省きせいしてこようが、特別とくべつなご馳走ちそうなんて無いのだけれど、どっちかというと外で食べに行ったりしていた。2人で、お昼ご飯にした。

「夕飯は、外で食べに行こうか。お父さん、帰ってきたら」

「いいって、気遣きつかわなくても。お父さん、疲れて帰ってくるだろ」

「そうかな、喜ぶと思うけど。久しぶりに話したいみたいだし。それに、お母さんはご飯作らなくて済むし。こんな暑いと、料理作るのも面倒めんどうになっちゃって」

「分かる」

「何がよ?」

 お母さんが、一瞬いっしゅんムッとした。多分、俺がずっと食べるだけだったから。顔に出たのだろう。


「俺も、ご飯作るようになったから」

「お料理をする? どなたが」

「俺が」

「彼女が?」

「何でだよ、俺がだって。いっつも、みんなそう言う」

冗談じょうだんよ、ごめんごめん。どうしたの?」

 お母さんが、ビックリしたような顔をした。俺は実家にいた時、一切いっさい、料理をしなかったからだ。そこには、深く話すことはなく、その前に俺は聞きたかった本題ほんだいに入った。


「お母さん、あのさ俺、一回、前に電話した時、あったじゃない」

「いつ?」

「夜にさ、元気~?って」

「あ~、あったわね。よく分からない用の電話」

「そうそう、あの時の聞きたかったことがあるんだけどさ」

「うん、何?」

 味噌汁みそしるを、ズズッと飲み込んだ。

「なんか、気になる人がいる時ってさ、ま、別に好きって訳じゃないんだけど。うん、なんか、仲良くなりたいなって思ってても、ネックになって止まるとか、自信がないとか言うじゃん。それって、どう思う?」

「うん? どういうこと」

「分かった。シンプルに聞こう。仲良くなりたい人がいて、足かせになる不安や自信が無い時って、めといた方が良い?」


 親子の悩み相談会が始まった。人生の先輩が身近にいるんだ。恥ずかしいけど、ちょっと聞いてみよう。お母さんの勝手かって解釈かいしゃくが始まった。オブラードと遠回とおまわしにくどい俺の質問じゃあ、分かりづらかったようで、単刀直入たんとうちょくにゅう解釈かいしゃくされた。

みのる質問しつもんちょっと変えていい? 好きになりたい人がいて、好きになって良いのか分からなくて困っているっていう事なら、母さんにも答えられる」

「いいよ、それで」

 もう、ストレートぎてずかしすぎる。まぁ、おおむね合ってるけど。


「そうねぇ、好きな歌で考えてみたら、好きな漫画まんが、アニメでも良いわよ。自分の好きなものってあるでしょ」

「うん、あるある」

「それって、歌とか漫画、アニメそのものを好きになっているでしょ」

「うん」

「それを作っている人達から好きになる? 好きになる前に、それを作った人たちがどういう人たちか分からないと、そのものを好きになれないって言ってる感じじゃない?」

「ああ、全部を知らないと好きかどうか分からないってこと?」

「そう、前から不思議ふしぎに思ってたんだけど。好きになる自信が無いとか、好きかどうか分からないとか、好きになる前に、何を知ってから好きになるのかなって。その人自身を知ってから好きになるのは分かるけど、知らない前って分かんないよね」

「気づいたら、夢中になっててゲームとか好きになるもんな。えっ、人も一緒?」

「好きになるって仕組しくみは似てるんじゃないかなって。どうして、好きなゲームや音楽は分かるのに、人となるとむずかしくなるんだろうね」


「確かに、そうだ。あっ、お母さんはどうしてた?」

「何がよ」

 唐突とうとつな質問に、お母さんがまたムッとした。俺は、いつも突拍子とっぴょうしの無い事を聞いてくるから、少し面倒めんどうな部分もあるようだ。もしくは、母親としてさびしさもあるのだろうか……無いか。


「もし、好きになりそうな人がいた場合、どのように対処たいしょしていた」

「よくぞ、聞いてくれた。息子よ。お母さんは、結婚する前、つねに5人の男の人と仲良くしていたぞ。5人のボーイフレンドってやつかしら。いそがしかった~」


 おいっ、おいおいおい! 


 一瞬いっしゅん、自分の耳をうたがった。

 そして母親の衝撃的しょうげきてきな恋愛話が、始まった。





























































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る