サイドB ②

第70話 まさかそんな……

「完全に破壊されてしまいましたね……」


 私が力なく言うと、芦原業務管理官が答えた。


「まずは依頼人たちの無事を確認しよう。俺と佐山は炎上している電車の確認と消防への出動要請を行う。と森は依頼人たちが駅のところにいるか確認してきてくれ」


「「分かりました」」


 私と森さんの声がハモった。


 二人して駅に裏手に回ると、依頼人たちは全員が怯えきった表情で待機していた。

天ノ川さんの推理によると、犯人は一六時発の電車内で依頼人たちを皆殺しにする恐れがあるとのことだった。そこで、電車には乗らないように忠告していたのだ。また、万が一電車に乗客がいたら下りるよう説得するようにも指示していた。彼らが電車に近づいたのは、誰か乗客が乗っていたからだろう。


 森さんが彼らを見回してから言った。


「皆さんお揃いですね。では我々にご同行いただき、事情聴取にご協力願えますか。皆さんがしたことは犯罪です」


 依頼人たちはしおれた花のようにうなだれていた。どう考えても頼む相手を間違えたとしか言いようがないだろう。というかそもそも殺しを依頼すること自体アウトなのだが。


 全員、家族――子供や配偶者など様々――を殺すと脅迫されていたという。もちろん脅迫された家族には現在警備隊が配備されている。ただ、孤島で七人もの人間を生首にした犯人だから、何をしでかすかは読めなかった。


 天ノ川さんと鴨尾さんは無事に戻ってこられるのだろうか。あるいは最悪の場合……。


 依頼人たちを引き連れて歩く。電車は炎上してしまったので、当分の間運転見合わせとなるだろう。


 ふとスマホアプリを開いた私はぎょっとした。


「ジェット機がこっちに向かってきています!」


「え!」


 森さんも身体を震わせた。彼は慌てて林のほうへと案内する。私と依頼人たちは急いで木陰に身を寄せた。私はモヤモヤした気持ちで呟いた。


「皆さんが無事だったことが犯人にバレたのでしょうか。だからとどめを刺しに戻ってきたとか……」


「まさかそんな……」


 森さんも頭を抱える。アプリを確認していると、飛行機の位置を表す赤い点は徐々に近づいてきていた。


 三度目のエンジン音がこだました。


「皆さん、頭を守って地面に伏せてください!」


 私が叫んだのもつかの間、しかしジェット機は上空を何事もなく通過した。


 あれ……?


 森さんも目をパチクリさせた。


「何もしてきませんでしたね。まずは一安心です」


 でも、油断は禁物。赤い点を観察し続ける。すると、ジェット機は最初に発見された林道のあたりでピタリと止まった。


 着陸した……?


 ブーッ、ブーッ。


 森さんのスマホからバイブル音が聞こえた。彼は怪訝そうに通知を開いた。その直後、彼の表情に花が咲いた。


「勝海さん! 鴨尾さんから着信です!」


 その言葉を聞いた途端、私は安堵のあまり膝からくずおれた。緊張していた涙腺が緩み、一筋の涙が頬を伝った。

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