第66話 まだ終わりではない

「我々も行きましょう。解決策を探りに」


 私はそう進言した。芦原業務管理官が「うむ」とうなずき返してきた。


 私たちはジェット機がまだ来ていないことを確認し、足早に幸ヶ崎駅へと近づいた。その道中、芦原業務管理官が私に向かって聞いてきた。


「たしか天ノ川の推理では、報酬受け渡しが行われてからもまだ終わりではないということだったな?」


「そうですね。何もなければそれが一番良いのですけれど……」


「まあ最悪の事態を想定するに越したことはない」


 私たちは幸ヶ崎駅ホームの裏手にこっそり回りこんだ。壁の向こう側には依頼人たちがいる格好だ。


 依頼人たちは私たちや警察が張りこんでいることを把握している。警護にも協力的だ。私は壁の隙間から豆粒のような小さな機械を差し入れた。依頼人の一人が受け取ってくれた。


 今渡したのは発信機だ。これさえあれば、犯人の居場所は丸分かり。報酬を奪い去った犯人を現行犯で取っ捕まえられるという寸法だった。


 でもそううまくいくだろうか。実はあまり期待していなかった。


 犯人は航空機で逃げると考えられる。当然ながら、こちらからは犯人を墜落させるなどという暴挙には出られない。犯人には説得して降りてきてもらうしかない。


 ここまでの大規模な犯罪を成し遂げた犯人が、果たして自分の意志で降りてくるだろうか? そんな奇跡が起きるとはとても思えなかった。


 私は空を見上げた。


 ――やはりジェット機内での直接対決で頑張ってもらうしかないか。地上からできることには限界がある。


 手を合わせて無事を祈った。


 森さんが腕時計を気にしながら私の腕を引っ張った。


「そろそろ時間になります。我々は元いたところに戻りましょう。犯人に姿を見られては危険ですから」


「そうですね」


 私はうなずき、さっきいた畦へと引き返す。時刻はもうすぐ一四時五〇分を指そうとしていた。駆け足で戻り、畦の木陰にみんなして隠れる。ここなら上空からは見えないだろう。


 数分後、ゴーッと鼓膜を揺るがすような音が聞こえてきた。飛行機のエンジン音に違いない。音のしたほうを見ると、白いボディに黄色い線が入った例のジェット機があった。あの中に凶悪犯罪を実行した犯人がいる……。


 機体からは長いロープがぶらさがっていて、その下端に円盤が繋がれていた。


 あの推理は当たっていたらしい。おそらくぶらさがっている円盤は電磁石。


 ジェット機はあっという間に接近してきたかと思うと、急に高度を落とした。その進行方向――幸ヶ崎駅の屋根の上には、札束の詰まった銀色の箱が置かれている……。


 機体が駅の上空に来た瞬間、箱が宙に浮かびあがった。そしてぶらさげられた円盤に貼りつき……そのまま機体は遠い彼方へと飛び去っていった。

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