サイドB ①
第65話 あ、来ましたね
あんなに止めたのに、鴨尾さんは強情だ。私の推測が正しければ、もうまもなく犯人に出くわす頃合いだろう。どうか無事であることを願うほかない。
かくいう私は田んぼの畦道にしゃがみこんでいた。ここからなら幸ヶ崎駅のホームを遠巻きに眺められる。
刑事課が捜査を進めたところ、結局遺族たちは全員幸ヶ崎駅に集合することになっているらしかった。我々は厳戒体制で臨んでいる。北海道警察からも複数名動員し、陰から警戒に当たっていた。
駅のホームにはすでに三人が到着していた。誰が誰かは分からないが、おそらく犯人に殺しを依頼した依頼人たち。三人とも大きなバッグを持ってホームを右往左往している。あのバッグの中に札束が詰められているのだろう。
海保刑事課が依頼人の一人から引き出した情報によると、集合完了時刻は一五時だという。こんな白昼堂々に何を仕掛けてくるのか、すべての可能性を考えておかねばならない。
もう一四時すぎだ。集合時刻まで一時間を切っている。
この路線は電車が一時間半ごとにしかやってこない。前の電車が一三時着だったから、まもなくやってくる一四時半着が集合時刻までの最終電車だ。果たして全員が揃うのかどうか……。
私個人の考えとしては別に全員揃わなくてもいい。人数が増えれば増えるほど被害拡大のリスクが高まり、危険だ。
とはいえ依頼人の立場からしてみれば、成功報酬を支払わずにバックレるというのはリスクが高すぎる。刑事課が問いただしたところ、報酬を支払わなかった場合、依頼人の家族を殺害すると脅迫されているそうだ。報酬受け渡しは是が非でも行うしかないということらしい。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
「あ、来ましたね」
隣で森さんが左方向を指差した。そちらに目を向けると、一両だけの電車が走ってきていた。中はよく見えない。
まもなく幸ヶ崎駅に停車した。何人かがホームに降り立つのが確認できた。
二分ほど停車してから、電車が発車した。ホームにいるのは七人だった。――ということは、神々島の被害者一人につき依頼人が一人であると仮定すれば、ミスターXに対しても殺しの依頼が舞い込んでいたことになる。
全員がそれぞれのバッグを大事そうに抱えていた。それはもう巨額の報酬金であると推測される。
彼らのうちの一人が銀色に輝く大きな箱をホームに置いた。何やら話し合ってから、依頼人たちはその箱に札束を詰め始めた。
「犯人はあの箱を強奪するようだな」
芦原業務管理官が苦虫を噛み潰したような表情で言った。
依頼人たちはただひたすらに札束を移し続けていた。合計したら数億は下らないのではないか。しばらくすると、一人また一人と箱から離れていった。札束を移し終えたのだろう。
まもなく最後の一人が作業を終えた。すると今度は、全員で協力して銀色の箱を幸ヶ崎駅の屋根の上に運び始めた。
やはりあの推理は正しかったようだ。
おそらくあの箱は鉄製。『ミスターXの雪密室』においてミスターXが日本刀を盗み出したのと同じ手口。犯人は小型ジェットから電磁石をぶら下げて報酬金を得ようとしている。私はそう確信した。
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