第63話 いったいどういうことだ?
鴨尾は混乱する頭をなんとか回転させた。
彼女には職員の中条と会話したアリバイがあったはず。同時刻に神々島にいることはできない。あるいは双子か。すべてのプロフィールが非公開の時嶋。家族構成などもちろん知るよしもない。だから全くありえない話ではない。とはいえ本当にそんなことがあるか……?
考えれば考えるほど、見間違いのような気がしてきた。犯人はまだ買い物袋をガサゴソと触っているようだ。確認するなら今だ。
鴨尾はもう一度隙間から覗き見た。
……やはりどう見ても、あの顔は時嶋だ。今度は見間違いではない。いったいどういうことだ?
そう思ったのもつかの間、彼女が内ポケットから取り出した物に鴨尾は戦慄した。黒光りするそれは――拳銃。かなり特殊な形状をしているが、銃であることは一目瞭然だった。
鴨尾は慌てて頭の位置を戻し、身を隠した。
時嶋……いつの間にあんなものを。
鴨尾も万が一に備え、拳銃を所持してはいる。海上保安官には携帯が認められているのだ。しかし警察官と同様、安易に発砲するわけにはいかない。
どうすればいい。考えろ、考えろ。
鴨尾が頭を必死に巡らせていると、再び扉が開閉する音がした。時嶋がコックピットのほうへ入ったようだ。
その後、ギギギギ……と何かが駆動する音が聞こえたかと思うと、バタンと何かが閉じた。音の方向から察するに、昇降階段が格納され、入り口が閉ざされたようだ。
退路は断たれた。果たしてどう逮捕まで持っていくか。鴨尾は思案に暮れる。
その間にも、報酬受け渡しと思われる一五時は刻一刻と迫っていた。何の策も立っていない鴨尾は焦りを感じ始めた。敵陣潜入などという選択、衝動的に取るべきではなかったか。
――いや、今さら後悔しても遅い。選んだ道でできうる限りの最高のパフォーマンスをするのみだ。
鴨尾は座席の隙間から様子をうかがう。すると再び時嶋がコックピットから現れた。それとなく観察していると、彼女の動きがピタリと止まった。
「……誰かいるようですね」
心臓が跳ねた。鴨尾の居場所が見つかったのか、あるいは。
鴨尾は時嶋からは見えない位置にそっと身を戻した。が、疑念を持たれてしまってはもう遅い。
彼女がズカズカとこちらのほうへ歩いてきた。そうなってはもうダメだ。鴨尾は座席の間に身を縮ませているだけだから、気づかれないはずがない。
案の定、時嶋は座席のすぐ横まで来ると、彼の姿を視認した。彼女は黒真珠のような瞳をいっぱいに広げ、驚いた表情を作る。そして懐から例の拳銃を取り出し、鴨尾の胸に向けると――一切の躊躇もなしに引き金を引いた。乾いた銃声が機内に響きわたった。
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