第57話 殺人現場を通報できなくするのはとても難しいことです
天ノ川は一息ついてから続ける。
「殺人現場を通報できなくするのはとても難しいことです。それを解消するため、犯人はターゲット全員を共犯にしたてあげるという前代未聞の犯行を遂げたのです」
森が納得したように大きくうなずいてから、尋ね返した。
「犯人については変わらず殺し屋という解釈でよろしいのですね?」
「ええ。もしターゲットからも金を巻き上げていたのなら、犯人は殺し屋でもあり強請り屋ともいえるかもしれませんが……」
そのとき芦原が口を挟んだ。
「犯行の方法については分かった。それで、結局犯人が誰かというのは分かっているのか?」
すると天ノ川が初めて苦い顔をした。
「具体的に誰ということは分かりません。神嵐館は爆弾によって崩落しており、証拠らしい証拠は生首以外残されていなかったためです。ただ、宇津保愛吾氏や、船長である岸本氏や砂川氏など、この周辺に住んでいる人物は犯人ではないでしょう。犯人が台風の上からどこかに着陸したとして、それは台風の外側でなければなりません。さらに、今回の台風は超大型です。本州のほとんどは覆われてしまっていました。また、暴風域下では交通網が麻痺していましたので、迅速に移動することはできません。すなわち、私たちが直接聞き込みを行えた相手は犯人ではないということになります。着陸したのは沖縄か北海道か、あるいは海外か……」
と、天ノ川が鴨尾のほうに体を向ける。
「鴨尾さん、刑事課から返信はありました?」
「ん、まだなさそうだな」
新着メッセージの通知は来ていなかった。
というのも、電車でここへと向かっている最中、刑事課の米倉に〈神々島の被害者が過去に殺したとされる被害者の遺族の動向を注視してほしい。何か動きがあったら早急に教えてくれ〉とメールを打っておいたのだ。天ノ川に言われるままに。
「これはどういう意味なんだ?」
「首を切ったのは、犯人本人が殺人を犯したことの証明であると言いましたね。ということは、ニュース報道が済んだ今、成功報酬の授受はまもなく行われるはずです。それはなんとしても阻止しなければなりません。――今からでも電話で聞いていただけませんか?」
電話か。昨日「電話してくるな」と釘を刺されたところだし気が引けるが……そんなことも言っていられない。
鴨尾は会議室を一度出た。米倉の電話番号に発信する。長いコールのあと、なんとか繋がった。
「もしもし、鴨尾だ」
「米倉だ。電話してくるとはもしや緊急事態じゃあるまいな」
「残念ながらそうだ。至急確認したいことがある。神々島での被害者に殺された遺族への捜査は続けているか?」
「もちろんだ。今も監視している。彼らには一応復讐という動機があるからな。とはいえなぜか全員に鉄壁のアリバイがあるから困っているんだが……」
「まあそうだろうな」
「なぜそんな分かった風なんだ?」
そこで、鴨尾は天ノ川の首切りの理由に関する推理を軽く説明した。米倉は納得したようだった。
「なるほど。一理あるが……それはまずいな」
「どうした?」
「井口弘に殺害されたとされる成瀬亀雄さんの兄。遠藤恵子に殺害されたとされる熊谷莉奈さんの父親。溝野望実に殺害されたとされる大友瀧さんの妻。この三名の遺族が、明日遠出したいと言っている。捜査員が詰めよったところ、成瀬さんの兄と熊谷さんの父親が北海道の
北海道の幸ヶ崎駅……。そこで成功報酬の支払いが行われるのだろうか。ネットを介した支払いでもいいだろうに、犯人には何か策があるのかもしれない。鴨尾は一応聞いてみる。
「遺族たちが遠出するのを止めることはできないのか?」
「ああ、残念ながらな。アリバイがある以上、我々が強制力をもって留めおくことはできない。また、依頼人は何らかの形で脅迫されている可能性もあるし、報酬の授受を行わない場合極めて大きな危険が伴うだろう。相手が相手だからな……」
「そうだろうな。ちなみに、その三名以外の遺族についてはどうだ?」
「情報を収集しているところだ。そのうち吐くかもしれんが、分からない」
「分かった。ありがとう」
鴨尾が答えると、プツンと切れた。会議室に戻って今の会話を要約する。
彼が話し終わると、勝海がスマホを取り出した。そして何やら入力し始めた。しばらくしてから、顔を上げた。
「幸ヶ崎駅といえば、自動運転の電車が走行している路線です。利用者がほとんどいないため、経営破綻の危機にあるとか」
過去の殺人の遺族たち――おそらく今回の殺人の依頼人だろう――はそんな駅に行ってどうするのだろうか。果たして犯人はそこに現れるのか。鴨尾には読めなかった。
すると、天ノ川が神妙な面持ちで告げた。
「事態は想定以上に悪化しています。最悪の場合、さらなる死者が出る可能性まであります。なんとしても止めなければなりません。――業務管理官」
「何だ?」
「『不審な航空機が発見された、現れた』といった情報が北海道警察に入っていないか確認していただけますか」
「……分かった。問い合わせておこう」
「ありがとうございます。――我々の戦いはここからです」
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