第56話 私がまず疑問に思ったのは……

「私がまず疑問に思ったのは、ということです」


「どういう意味ですか?」


 森が尋ねると、天ノ川は答える。


「たとえば私が被害者の側だとしましょう。それならば、必死に抵抗したり、全員で集まって過ごそうと提案したりするでしょう。しかし実際には何の問題もなく成功しています。成功したと分かる根拠は、逃走した犯人に航空機を操縦する技術があったこと。もしも殺人の最中に暴動が起きて計画した犯人が殺害され、別の被害者が全員の首を切ったのだと仮定すると、その被害者には逃走する手段がありません。その場合、ミスターXを殺すことはせず、彼に操縦を依頼するでしょう」


 ……。


 森が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ミステリマニアの彼としては何か物申したいところがあったのかもしれない。が、彼が口を開く前に天ノ川が続けた。


「となれば、犯人はアリバイ等を用いて、常に犯人候補の圏外に逃れていた。そう考えるのは自然ではないでしょうか。もちろん必ずしもそうとは言いきれませんが」


「そういう可能性は高いだろうね」


 佐山が曖昧に返した。


「これだけではありません。さらにこんな疑問も湧いてきます。宿? 夜間なら分かりますが、死亡推定時刻は白昼堂々です。しかもそのうちの三人は絞殺。順番に殺していかなければなりません。一人二人なら可能でしょうが、ミスターX以外の六名を真昼に全員殺すのはいささか無理があるのではないでしょうか。少なくとも、犯人が計画する段階ではリスクが大きいと考えるのではないかと。――まあここまではあくまで推測。推理のきっかけとお考えください。一番重要な疑問はやはり。これに集約されます」


「たしかにそれは極めて不可解だ。全員が連絡手段を断たれていたということになるのだろうが……」


 芦原が考えを巡らせるように言ったが、天ノ川は首を振る。


「そう考えてしまうと、犯人の思う壺です。一度犯人視点に立って考えてみましょう。犯人は全員の携帯を何らかの理由にかこつけて取り上げるとします。しかし、携帯は一人一台しか持っていないとは限りませんから、ターゲットが携帯を隠し持っている可能性は常について回ります。これは犯人にとって大きなリスクとなります。ここは一度考えを反転させたほうがよさそうです」


 彼女はまた指をクルリと回した。


「携帯を取り上げたりはしておらず、……どうでしょうか」


 大沼が即座に突っこんだ。


「本気で言っているのか? 次々と人が殺されていくのに、通報しない理由はないだろう」


「それがそうとも言いきれないのです。ここで皆さんに質問です。神々島には絶対に警察に通報しようとしない人物がいます。それは誰でしょうか」


「それは……でしょう」


 勝海が目を泳がせながら答える。必死に頭を整理しながら聞いているらしい。


 天ノ川は勝海の口を指差した。


「まさにその通りです。当たり前ですが、犯人は通報しません。あと、厳密に言えば初めに殺害された井口弘ですね。では、……? このように考えれば、今挙げた疑問はすべて解決されます」


「全員が自分を犯人だと思っている? どういうことだ?」


 芦原が意味が分からないといった風に尋ねた。天ノ川は一拍おいてから続けた。


「単純なことです。犯人は井口を除く全員に対して『あなたと協力関係を結びたい。ただし条件として、あなたには一人だけ殺してほしい』と吹きこんだ。そうして。こうすればアリバイなどいくらでも作れます。被害者全員との交換殺人といったところでしょうか。また、皆殺しにするのも容易です。全員が『自分だけは殺されない』と思いこんでいますから」

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