第47話 注意事項はひとつです
中条が真剣な表情でこちらを見据えた。
「注意事項はひとつです。これから見聞きすることは、絶対に口外なさらないようお願いしたいということです。時嶋の技術は国内外から多大なる注目を集めています。ですので、命を狙われないよう、現在すべての素性を非公開とさせていただいております。性別、年齢、身体的特徴を含めたあらゆることです」
「ふむ。承知しました」
芦原が重々しくうなずいた。鴨尾も心の中で今言われたことを咀嚼した。
中条がうなずき返してから言った。
「他に私にお聞きになりたいことはありますか?」
鴨尾が手を挙げた。中条が手のひらをこちらに向けた。
「どうぞ」
鴨尾は素朴な疑問をぶつけた。
「中条さんは何をされている方なのです?」
「申し遅れていましたね。私は時嶋の助手のような立場として働いております。もちろん時嶋の顔は存じています。が、普段はあまり接触しないようにしております」
「ほう」
鴨尾が続きを促すと、中条は続けた。
「これも極秘なのですが、時嶋はとある地下の一室にこもって日々研究作業をしています。中でどのようなことを行っているのか、我々も把握しておりません。我々の主な仕事は、時嶋が時々部屋から持ち出してくる研究成果を整理し発表することです」
「時嶋氏以外の研究員の方々は研究を行っていないのですか?」
「もちろん少しずつ進めてはいます。しかし、時嶋が行っている最先端の研究には遠く及びません。言ってしまえば、小学生の集団の中にアインシュタインが混ざっているようなものなんです」
その異常とも言えるアンバランスさに、鴨尾は強い違和感を覚えた。
「時嶋氏の日常生活はどうされているのですか? ずっと部屋にこもっているというのは現実的に難しそうですが」
「はい。食事は決まった時刻に時嶋の部屋の前まで運んでいます。時嶋の方針として、外界の人間との接触は極力避けたいとのことなので」
鴨尾は疑念を抱いた。
「九月一〇日の朝食、昼食、夕食も普段と同様に行いましたか?」
佐山と芦原から非難の視線を感じた。失礼だろ、ということらしい。
しかし、中条は特段気にしている様子はなかった。
「朝食も昼食も夕食もご用意しましたよ。部屋の前にセットしておきました」
「その際、時嶋氏と会話を交わしたり、姿を見たりしましたか?」
「さっきも申し上げた通り、姿を見ることは普段からめったにありません。でも軽い会話はしました」
「その会話はいつも同じものですか?」
「時嶋は実際には部屋にいなくて、声が録音だったのではないかと疑っておられるのですか? でしたらそれは的外れかと思います。長くはありませんでしたが、普通に会話は成立していましたから。間違いなく時嶋の声でしたし」
なら時嶋にはアリバイ成立、か。
「そうですか。失礼しました」
鴨尾は素直に頭を下げた。中条は画面越しにこちらを見回すように首を回した。
「もうご質問はございませんか?――では、時嶋とご対面いただきましょう」
中条が右側に消え、代わりに左から一人の人間が現れた。
その人はゆっくりとした動作で画面の向こうに座った。ワンピースの裾がハラリとはらんだ。
「海上保安庁の皆様、よろしくお願いいたします。ご紹介を賜りました、時嶋空と申します」
時嶋空は――二〇歳ぐらいの若い女性だった。
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