第41話 神嵐館の宿泊者リストはお持ちですか?

 宇津保愛吾の家は、まるで豪邸のようだった。不動産会社社長・宇津保和良の御曹司なんだから当然といえば当然か。


 周囲は高い塀に囲まれていて、仰々しい門がそびえている。その横にちょこんとインターホンが取りつけられていた。明らかに建ててからくっつけたものだ。不似合いなことこの上ない。


 ピンポーン。


 鴨尾がインターホンを押すと、「はい、ただいま向かいます」と男の声がした。


 門を開けて出てきたのは、くたびれたパーカーを羽織った四〇代くらいの男だった。髭はちゃんと剃っていて、最低限の身だしなみは整えているようだ。


 鴨尾が証票を見せながら、


「海上保安庁の者です。宇津保愛吾さんにお伺いしたいことがあります」


 と告げると、相手は突然頭を深々と下げた。


「この度は私の不適切な対応により大事にしてしまい大変申し訳ございませんでした。心よりお詫び申し上げます」


 宇津保愛吾は謝罪会見みたいに謝ってきた。鴨尾は困ってしまい、頭を掻きながら答えた。


「そういったお話は後で構いませんから。……家にあげていただいても?」


「ええ、どうぞどうぞ。お上がりください」


 豪邸に住んでいる御曹司とは思えないへりくだった態度。親の顔が目に浮かぶようだった。


 門をくぐると、石畳がまばらに配置された箱庭があった。玄関はアンティークな雰囲気で、これまた立派な造りだった。


 鴨尾と天ノ川は座敷に通された。宇津保が慌てたように座布団を敷いていく。二人は恐縮しながら座りこんだ。宇津保は低いテーブルを挟んで向かいに座った。そして、こちらが第一声を発するのを待つかのように押し黙った。


 鴨尾はコホンと咳払いしてから、事情聴取を開始した。


「お伺いしたいことは山ほどあるのですが、まず、神嵐館の宿泊者リストはお持ちですか? もしお持ちならご提示願えますか」


 今回の不可能犯罪は、侵入も脱出もできないという特異なものだ。その性質上、島の出入りを示す宿泊者リストは、とても重要なものと思われた。


 宇津保は「少々お待ちください」と言い残して部屋を出た。まもなく、ノートパソコンを抱えて戻ってきた。


「現在オンラインでの予約のみ受け付けさせていただいておりまして、宿泊者リストもここに保存しております」


 言葉が端から端まで恭しい。無礼な人間と対峙するよりはもちろんいいのだが、鴨尾は少し居心地が悪くなった。


「ええっと、そちら見せていただけますか」


「もちろんです」


 カタカタとパスワードを打ち込むらしき音がしたあと、宇津保は画面をこちらに向けた。


 天ノ川と二人して覗きこむ。


ぐち ひろし

和泉いずみ さと

えんどう けい

くろ たかまさ

まち ひで

ぶち とも

みぞ のぞ


 五十音順に並べられているようだ。鴨尾は必死に頭の中を整理しながら言う。


「たしか黒栖隆正が館を予約してきたんでしたっけ?」


 宇津保はうなずいた。


「その通りです」


「ふむ。この宿泊者リストですが、偽名を使うことはできます?」


 宇津保は天井に仰いで考えてから、再びこちらを向いた。


「可能でしょうね。私としましては、お客様が本名かどうかなんて分かる術がございませんから」


「たしかにそうですね」


 鴨尾は考えた。一番の問題は――


 


 井口弘、和泉美里、遠藤恵子、真渕智也、溝野望実の五人は、被害者の本名と一致している。残る被害者はミスターXこと三須田清と、放火殺人の指名手配犯である小牧秀俊だが……。


 どちらかが黒栖でどちらかが町谷なのだろうか。そうなれば、何者かも知れぬ外部犯がすべての殺人を実行したということになる。どうやって侵入し脱出するのかは不明だが。


 あるいは、黒栖か町谷が犯人ということもありうる。だがその場合、三須田か小牧のどちらかは黒栖でも町谷でもないということになる。そうなると、なぜそいつが島で死んでいるのかという謎が生じる。


 謎は解決するどころか、深まるばかりだった。

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