第40話 お前にはもう事件の全体像が見えているのか?

 天ノ川が足を早めた。鴨尾はその背中を追う格好になる。目的地は鳥羽海上保安部だ。


「なあ、天ノ川」


 後ろ姿に向かって話しかける。


「はい」


「お前にはもう事件の全体像が見えているのか?」


 彼女の歩く速さが少し落ちた気がした。だが、立ち止まることはない。顔も前に向けたままだ。


「……いえ、全く。何か分かったらすぐにお伝えします」


「そうなのか」


「ええ。私は秘匿主義ではありませんから。私が考えを秘匿している間に事態が悪化するのが一番恐ろしいことです」


「そうか」


 鴨尾は一度短く切ってから続けた。


「刑事課からは自由に行動しろとのお達しが出ているが、次はどうする? やはりキーマンは宇津保愛吾か」


「現時点ではそのように思われますね。宇津保さんはこの周辺に住んでらっしゃるんでしょうか?」


「確かめてみよう」


 鴨尾は神嵐館のホームページを閲覧しようと、スマホを開いた。宇津保愛吾は経営者だから、住所か電話番号が載っていると踏んだのだ。


 と、米倉から新着メールが一件届いていた。先にそちらを見ることにする。タイトルは「天ノ川によろしく頼む」となっていた。


『よう、鴨尾。こちら刑事課では、被害者の周辺を洗い出す作業を進めている。そこでなんだが、そちらには溝野望実の調査を依頼したい。もちろん自由に行動してよいという条件を出してはいるから、そちらが受け入れられないならこちらで動く。そのうえで話させてもらう。


 溝野は独身で、両親も早くに亡くなっている。現在も存命なのが、溝野の姉であるやなぎさわゆみさんだ。真弓さんにはあやちゃんという娘が一人いる。溝野望実と血が繋がっていて、かつ生前に交流があったのはこの二人だけらしい。


 彼女たちは、大友瀧さん死亡事件に関係がある可能性がある。大友さんとの直接の関係は見つかっていないが、溝野の殺意が芽生えたのだとしたら、柳沢さん母娘が引き金だったのかもしれない。何もかも分からないから断定はできないが。


 最期に、神嵐館の経営者・宇津保愛吾の情報も下に貼りつけておく。


 以上だ。天ノ川によろしく頼む。彼女を動かせるのはお前だけだ。 米倉』


 その下に、宇津保愛吾と柳沢真弓の住所が添付されていた。溝野望実の身内に、宇津保の居場所。重要な情報がてんこ盛りだ。宇津保の住所はまさしく鴨尾が一番欲しかった情報であり、米倉の洞察力が垣間見えた。


 宇津保愛吾の家はすぐ近くだった。神々島で何かあったときに、目が行き届きやすくするためだろう。なんなら鳥羽海上保安部に帰るより近い。


 鴨尾は天ノ川のほうを見据えた。


「宇津保愛吾の家はここから歩いて行ける距離にあるらしい。どうだ、行ってみるか?」


 天ノ川は間髪いれずに振り向いた。


「そうですね。宇津保さんに聞いてみたいことがいくつかありますので」


「決まりだな」


 鴨尾たちは進行方向を切り替えた。

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