第39話 お前はなんて恐ろしいことを考えるんだ
「首を切って並べたのは、そのことを誰かに見せたかったから。これに尽きるでしょう」
「してその根拠は?」
「犯人はひとりひとり絞殺あるいは失血死させていったわけですが、落ち着いて考えてみてください。犯人は館をも落とせる大量の爆弾を持っているのに、なぜそれを殺人には使わなかったのでしょうか。爆殺すれば間違いなく一網打尽にできたはずです」
「あ……たしかにな」
考えてもみなかったことだった。
「だがその理由となると皆目見当がつかない」
「それはひとえに他殺であることを誰かに見せつける必要があったからということになるでしょう。爆発によって死体が砕けてしまうと、自殺か他殺か分からなくなってしまいます」
「うーん。言いたいことは分かるんだが、どう考えても矛盾しているだろう。他殺だと見せつけたら、犯人の存在を浮き彫りにするだけじゃないか。一人でも自殺に見せかけておけば犯人に好都合だというのは、すでに何度も話し合っただろう?」
天ノ川は落ち着き払っていた。
「そこがもっとも重要なポイントです。これは犯人の殺人動機にも直結しているのです」
「まさかこれは復讐で、被害者たちにはミッシングリンクがあったんだとか言わないよな」
「ええ、違います。犯人はいわゆる殺し屋でしょう」
「殺し屋……」
「すると、数々のことに説明がつきます。たとえば、なぜわざわざ孤島に被害者を呼び出して殺害したのか。これは台風下で不可能犯罪を成立させるためというのももちろんあるでしょう。ですが同時に、殺しの依頼人が本土で生活しているだけで鉄壁のアリバイになるという効果もあるんです。さらに依頼人は本土でもアリバイを作る。すると二重のアリバイが完成し、捜査員は手の施しようがないでしょう」
「たしかに犯人の動機が殺し屋なら、島の被害者たちが過去に殺人を犯した疑いがあるというのもうなずける。依頼人は過去の殺人にて殺された人たちの遺族なのだろうな。だが、それが首を切ったのとどう関係するんだ?」
天ノ川が苦虫を噛み潰したような顔をした。
「依頼人のわがままと犯人の傲慢が生みだした副産物でしょう」
「ん……? 抽象的すぎて意味が分からん」
「依頼人は、他殺であると明示するよう犯人に依頼していたのです。被害者は七人ですから依頼人も同じく七人いると思いますが、そのうちの何人かがそう要求したのでしょう。わがままな依頼人は、殺し屋本人がターゲットを殺害したのだという証明が欲しかったのです」
「なん……だと」
「依頼人の立場になって考えてみましょう。殺し屋に殺人を依頼したはいいものの、殺し屋が別の自殺願望者に殺人を丸投げする可能性があります。そうなると、殺人を依頼するのも重罪ですから、依頼人は殺し屋に脅迫し返される可能性が出てきます。その点、殺し屋本人が殺害を実行したなら、依頼人を脅すようなことはできないでしょう」
「ふむ……」
「そして私の推理では、島からの脱出トリックそのものがパスワードのような役目を果たすのではないかと考えています」
「どういうことだ?」
「当然ながら、島の不可能状況を生んだトリックは殺し屋である犯人しか知りません。犯人は犯行後、自分の身は伏せたまま、メールなどでトリックだけを依頼人に教える。すると紛れもなく殺し屋本人が殺人を実行した証明となり、すべてが完成するのです。ま、ここまで来ると私のただの邪推かもしれませんが……」
「天ノ川……お前はなんて恐ろしいことを考えるんだ……」
彼女の口から出てくる衝撃的な言葉の数々に圧倒される。が、やはり少し突っこみどころがある。
「ひとつ聞きたいんだが、その作戦、殺し屋側にはメリットがないんじゃないか?」
「依頼人が『他殺だと証明できないなら依頼を取り下げる』といった趣旨のことを言ってきたのだと推察します。金に目がなかった殺し屋は了承した。神々島から姿を消すトリックにも相当な自信があったのでしょう。さらに、依頼人に恐怖を与えるという意味合いもあります。『金を払わなければ次はお前の番だぞ』といった風な」
「まあ殺し屋にそこまでされて金をバックレる人間はさすがにいないだろうな」
「私が依頼人でも怖すぎて支払うでしょうね。そういった理由があって、犯人は自分による他殺であることを証明するために動き回ったわけです」
鴨尾の中に閃くものがあった。
「それが、宇津保愛吾が岸本に出した『ドッジボールサイズのものが入る荷物を調べろ』という要請に繋がるのか」
「その通りです。犯人が神嵐館を予約するとき、宇津保さんにそのことを要求したのでしょう。それをそのまま宇津保さんが岸本さんに伝えた。ドッジボールというのはおそらく生首の大きさです」
生首をドッジボールに言い換えるとは。鴨尾はうすら寒いものを感じた。
「先ほど言ったように、殺し屋は自殺願望者に殺人を頼んだという可能性を消さなくてはなりません。しかし、島に上陸する前に荷物確認が行われなければどうでしょう。自殺願望者が先に殺しておいた生首を荷物に収めて上陸し、一緒に島に来た六人を殺害して生首を七つ並べてから自分は海に飛び込み自殺した、という可能性が残ってしまいます」
「その可能性を犯人は否定したかったわけか。そこまで読んで、天ノ川は岸本にあんな質問をしたのか?」
「一応はそうです。正直当てずっぽうに近かったですが。推論に推論を重ねたようなものですから。しかし、実際に宇津保さんは荷物確認をさせていた。これで私の推理は補強されたのです。で、ここまで推理を進めると、私としては一番重要なことが判明します」
「何だ?」
「犯人が金を目的とした殺し屋である。これはすなわち、犯人が現在ものうのうと生きているということです。先ほど脱出トリックと言いましたが、犯人が殺人を完遂後に自殺したという可能性はほぼなくなったと言っていいでしょう。次の殺人を止めるため、我々は動かなければなりません」
天ノ川の決意は固そうだった。事件解決に全く興味を示していなかった彼女がウソのようだった。天ノ川のあるべき姿は間違いなく今の姿なのだと鴨尾は確信した。
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